「やばい…」

何がやばいって、最近ドーナツ食べすぎちゃったなーとか、あんまり動いてないなーとか、そういえばこの間飲み会だったなーとか、思いつく数だけ、私は禁忌を犯したのだ。

「3キロも増えてる…!!」

それは当然の結果だった。今日は飲み会行ってたし太って当然だから計らないー、とか、そんな感じで逃げていて、そして運命の今日。体重計の数値が3キロ程増えていた。元々痩せているわけでもない私の体はみるみる余分な脂肪をつけ、見事なわがままボディ。

「どうしよう…今日はトラちゃんが来る日なのに…!」

トラちゃんとは、私のボーイフレンドである火神大我のことである。言わずもがな、大我=タイガー=虎=トラちゃんという流れでトラちゃんである。彼はいつもバスケで忙しい。背が高くて体ががっしりしていて、ほんとにバスケをやるために生まれてきたんだなーって、思うくらいにバスケが大好きで上手。

私たちは大学生から知り合って好きになって今に至るわけだだけど、私はバスケをしているトラちゃんが大好きだ。もちろんやってなくても大好きだけど。かっこいいし料理上手だし、でもちょっとおバカなところも可愛くて愛しい。とにかく好きなのです。トラちゃんは私の天使なの。

でも、でも。これ、どうしよう。さすがにダメだよね、許されないよね。このお腹。出てるよ、目に見えて出てるよ。ポッコリだよ。どうしよう。こんなの見ちゃったら、さすがのトラちゃんだって引くよね。

「トラちゃんに、嫌われたく、ない…!」

トラちゃんに会いたくない。いや、会いたい。久しぶりだもん。でも、これ。だめだ会えない。いや会いたい。

頭の中がぐちゃぐちゃになる。混乱、混沌。泣きそうになっていると、不意に玄関の方からガチャッと、鍵が開く音がした。もう、来ちゃった。合鍵を渡してるから、好きな時に来れるようにはなってるけど、どうして今日に限って早いの!

「ん?どうしたんだ?」

「ななななんでもないよ!ほらほら!ご飯食べよ!」

「おう!サンキューな!腹減っててさ!」

「トラちゃんはいつだってお腹空いてるじゃん」

二人で笑いながら作ってあった晩御飯を机にセットして、いただきますをする。お箸にももう慣れたようで、ひょいひょいと口に運んでいくトラちゃん。

「ん?何だ?腹減ってねーの?」

「…や、」

ついさっき体重計に表示されたあの数字を思い出して、箸を止める。気付いたトラちゃんがこちらを見て首を傾げた。

「食わねーのか?」

「…食べる、けど」

「何だよ、マジでどうした?」

「あのね、怒らずに聞いて欲しいの…嫌わないで欲しいの」

「……なんだ?」

トラちゃんが箸を置いて、ごくりと唾を飲み込む。

「私、私ね、さささ、さ…三キロ、太っちゃったの…」

「………そうか」

はああーと大きく息を吐いて、トラちゃんが椅子の背もたれにうなだれた。

「びびったー、別れ話とかされんのかと思った」

「そんなことしないよ!」

「はあー、気抜けたー。よし」

「わあっ!?」

トラちゃんは大きな体で、3キロも増えた私を軽々と持ち上げた。全然重くねえよ、と笑いながら、寝室へと向かっていく。ご飯が冷めちゃうよ!といっても聞かない。

「先になまえ食う」

「やあん!」

「このくらい肉付いた方がフニフニしてて気持ちいいじゃん」

「引かないの…?」

お腹をつまんだまま、一瞬きょとんとしたトラちゃんは、ニカッと満面の笑みを浮かべた。

「何キロ太ろうがなまえはなまえだろ?俺はお前の全部を愛してる」

トラちゃんの甘い言葉に急に5キロくらい太った気がしたけれど、トラちゃんの愛が激しすぎて次の日には元通りになってたっていう、惚気話。






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