俺には彼女がいる。
正確には彼氏のフリをしてやっている女がいる。まァ、つまりは遊びだな。その女の名前は名字なまえ。こいつはクラスメートで、たまたま暇だったときにたまたま告白されたから付き合っているフリをしてやっている。ちなみに顔はそこそこだがテンションが高い上、おつむはパーだ。勿論飽きたら即捨てる気でいる。
「んでねんでねっ、その時ねっ」
「へー、そんなことがあったの」
「うんっ!」
半分も聞いていないが適当に相槌を打ってやれば、なんともまあ嬉しそーな顔で頷く。ああ、そうそう。こういう単純で馬鹿で幸せそうな奴ほど、絶望の色を見るのが楽しみになる。
「面白いよね!」
「うん、あはは」
バーカ。お前の真っ暗な顔を想像するだけで爆笑モンだわ。
女と付き合って大体一ヶ月が経過した頃。女を校舎裏に連れ出した。
「花宮君、大事な話って何ー?改まってどうしたのー?」
「うん、実はさ、」
「うん?」
「お前の顔見てるだけで虫唾が走んだよ。さっさと俺の前から消えろ」
名字なまえは一瞬ぽかんと顔を呆けさせて、慌てて俯いた。さあ、顔を上げろよ。俺にその絶望した顔を見せろ。思惑通りに顔を上げた女は、だがしかし俺の予想に反して、顔を真っ赤に火照らせて笑っていた。
「はああああああんキタキタキタァアア!花宮君やっぱりそうだったんだね!私分かってたの!花宮君は絶対ドSだって知ってたよ!だって私を見るときの貴方の顔まるでゴミを見るように淀んでた!」
女は手で顔を覆いながら、興奮したように、いや、推測なんかじゃなくて、興奮して叫んだ。
「ねえもっと蔑んで!私この瞬間をずっと待ってたんだ!本当は告白したときにざっくり振ってくれるかとも思ったんだけど、なぜかOKしてくれて、一瞬うぬぼれそうになったけどその目を見て遊びだって分かってそれがもうたまんなくてね!」
気持ち悪すぎる。俺は引くを通り越して嫌悪感でいっぱいになった。
「あ、今私の事もっともっともっと嫌いになったよね!いいよ!もっとその調子で嫌って!」
女はそれはそれは嬉しそうな顔で、満面の笑みを浮かべた。俺は何もかもが気持ち悪くなり、女を素通りして足早にそこを後にする。
「放置プレイ!?放置プレイなの!?やだ興奮する!」
「うるせえきめえついてくんじゃねえ」
「花宮君花宮君!」
「豚小屋に帰れ」
「ひぎいいいいん最高ですありがとうございますううううううう」
女はそう叫んで頭を下げた。俺、今初めてタイムマシンが欲しいと思った。
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