どん、と肩がぶつかり、俺は反射的に「うぉっ」と間抜けな声を上げた。ぶつかった方も「わっ」と驚いているような声を上げる。その声が女のものだと気付いて慌てて「わりぃ」と謝る。
「こちらこそすいません。前見てなくて…」
見慣れない制服を着た女は、申し訳なさそうに軽く頭を下げて、友人らしき数人の元へと走っていった。
何も印象に残らないような、「普通」の女だった。
中学二年生、夏の大会の時のことだった。
01:彼と彼女の出会い
中学二年生、秋。冬が近付いてきた。締め切った教室の窓の向こうでは、からりとした天気が広がってはいるものの、ワイシャツだけじゃ寒い。こないだまで暑かったのに。前の席の仁王と二人、肩を竦めた。
「寒い。ブレザーはまだなんか」
「そうだなー。もうちょいじゃね」
秋の日差しが差し込む窓際の自席でそんな会話を交わし、時折絡んでくるクラスメートを相手にしながら担任が教室に入ってくるのを待った。
「なあ丸井、お前今日暇?」
話しかけてきたのはバスケ部の鶴見で、同じ学区内ということもあり、クラスメートとして普通に仲がいい友人だ。バスケ部の準レギュラーとして部活に励む姿は皆に評価されている。俺もがんばんねーとなぁ。
「あー?部活は休みだけど」
「じゃあ俺んち来いよ!」
「あー…」
特にやることもないし、今日は母ちゃんも家にいるから弟達の迎えは要らないし、ということで行くことにした。
「おう、じゃあ邪魔する」
「よっしゃ!お、先生きた。じゃあまた後でな!」
俺もなかなかテンションの高い方だとは思うが、こいつには敵わないな。手を振りながら飛び跳ねるように自分の席に戻っていく鶴見を見て、苦笑を漏らした。
「うるさい奴やの」
「お前のテンションが低すぎんだろぃ。てかお前また背伸びた?」
「んー、たぶん」
「くっそ」
自分のなかなか伸びない身長を恨めしく思いながら、担任の話を聞き流した。
放課後。約束したように鶴見と一緒に下校する。今日は鶴見の両親は夜遅くまで帰ってこないらしく、年の離れた兄ちゃんしかいない鶴見は、一人留守番との事だ。
「まあまあ上がれよ!」
物は多いがきちんと整頓された部屋に通される。二人で他愛もない話に花を咲かせながら、テレビゲームで盛り上がった。その後、許可をもらって床に放られていた音楽雑誌をぺらぺらと捲っていると、ふいにピンポーンと間の抜けたチャイム音が響いた。携帯を確認すると、もう五時半を過ぎている。
「鶴見、誰か来たぞー」
背後にいるはずの鶴見に声をかけるが返事がない。振り返ってみると、雑誌を見てて気付かなかったが、鶴見はいつの間にか自身のベッドで爆睡していた。まじかよ、と頬をかきつつ、未だ鳴り続けるチャイムに、不謹慎だとは思いつつも、玄関に向かった。
がちゃ、と遠慮がちに扉を開くと、見慣れない制服の女が、お盆を持って立っていた。
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