土曜は、戸田ちゃんが本当に写真を撮りに来て、楽しそうに写真を撮っているのを見て、俺は何故か嬉しかった。浮かれて何度も技連発したりなんかして、ジャッカルには苦笑いされ、柳にはため息をつかれ(相手校のデータが取れなかったらしい)、仁王には散々茶化された。

それから今日までの三日間、俺はソワソワしていた。俺のどんな所を描くのか、てかまず戸田ちゃんがどんな絵を描くのか、絵なんて興味ない筈なのに異様に気になった。

「まーるいっ」

「うぉっ!鶴見!」

「調子はどうよ?」

「普通かな」

「由紀子の方はいい感じみたいだぜ!」

どきっと心臓が高鳴るのを感じた。楽しみにしてたのがばれたみたいで。ニヤニヤと笑う鶴見が腹立たしい。

「今日、見に来るんだろ?」


08:彼は浮き足立つ



鶴見の家に行けば、もう既に戸田ちゃんがリビングでお茶を飲んでいた。本当に我が家みたいだな…。気心知れて、仲が良さそうに笑いあう二人に、少しだけ疎外感を感じる。ふと、戸田ちゃんがくるりとこちらを向いた。目が合って少し構える。

「丸井君、この間はありがとう。すごく楽しかった」

「いやいや、こちらこそわざわざ見に来てくれてありがとな」

「実は絵、もう洸ちゃんの部屋に置いてあるんだ」

「マジで!?見てもいい!?」

照れくさそうに笑った戸田ちゃんは、うん、と頷いて立ち上がる。飲んでいた茶を置いて立ち上がった鶴見に続いて、二階へと上がる。部屋には、そう大きくないスケッチブックほどのキャンパスがひとつ裏返しに立てられていて、俺は戸田ちゃんに許可を取って、絵をひっくり返した。

「おぉ……」

そこには俺のラケットを振りかぶる姿が描かれていた。揺れる髪や捲れ上がった服なんかが、その絵に動きを持たせている。絵のことはあんまわかんねぇけど、とりあえず、凄い、と思った。

「結構深い色を使うのが好きなんだよね。だから実際より重いかも知れないんだけど…」

「いや、かっけーよ!すごいな戸田ちゃん」

「良く描けてんなー」

「よ、よかったら、どうぞ…!」

「えっ!」

戸田ちゃんは絵を両手で俺に差し出す。緊張しているのか、手が小刻みに震えていて、俺にまで緊張が移りそうだ。

「ほんとに俺が貰っていいの?」

「せっかくだから丸井君に貰って欲しくて。あ!いらなければいいから!無理して貰ってもらおうってんじゃなくてその!よかったらという感じで!」

「や!こんな凄い絵俺が貰ってもいいのかって話で…!」

「いいじゃん!よかったな丸井!」

俺の手に渡った俺の絵。近くでじっくり眺めてみる。テニスをする俺は楽しそうだ。深い色を使っていて渋みが出ているはずなのに、戸田ちゃんの描く俺はきらきらしていた。

「サンキュー!帰ったら早速部屋に飾るわ!」

それを聞いた戸田ちゃんは、恥ずかしそうにしながらも、満面の笑みで「うん!」と嬉しそうに頷いた。







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