丸井君とボールは、まるで踊っているかのように、飛んだりはねたり、ネットの上を転がったり。彼はボレーの天才なんだそう。
07:レンズ越しの君
立海のテニス部がとても強いのは知っていた。というより、立海はスポーツ全般、強豪校として有名だ。同じ神奈川県民なら知らない人はいないと思う。彼らは常に先頭を走っている。この夏の大会だって、全国優勝という輝かしい成績を修めたばかりだ。
…にしても、圧倒的過ぎる。私は開いた口がふさがらなかった。
「ねえ洸ちゃん」
「何だね由紀子ちゃん」
「立海って皆こんな化け物の巣窟なの?」
「馬鹿こいつらテニス部が特別なんだよお馬鹿だね」
「馬鹿って二回も言わなくていいじゃん!」
髪の毛がカールしてる男の子から始まって、さっき睨んできた銀髪の人と七三分けの眼鏡の人がダブルスをやって(最初は入れ替わっていたらしい。入れ替わるって何?ていうかそれアリなの?)、丸井君と外人さんがコートに出てきた。ダブルスなのか。
「よっしゃ、ジャッカル、今日もいっちょやってやろうぜぃ」
「なんだ、今日は気合入ってるなブン太」
「まあなー」
カメラを構えると、楽しそうに笑った丸井君が、レンズ越しにこちらを見上げてピースした。少しだけ高鳴った胸に首をかしげながら、シャッターを切る。
一言で言うと、丸井君はすごすぎた。
何か手品を見てるようで、私はその試合に呆気にとられ、でも同時に、夢中でシャッターを切っていた。あっという間に大差をつけて試合が終わり、息切れもしてない丸井君はチームメイトとじゃれ合いに行った。
「なんか、すごかったね」
「なー、人の業とは思えないよなー」
「もはや魔法だね」
あのあと糸目の人と、帽子を被った人、軽くウェーブのかかった青い髪の人がそれぞれ試合をした。それはもう圧巻で、聞けば彼らこそ三強と呼ばれている立海のトップ3らしい。すごい。
一通り見れたし、写真も撮れて満足だ。カメラのデータを確認しつつ、洸ちゃんと並んでテニスコートに背を向けた。
「戸田ちゃん!」
背後から聞こえた声に振り向くと、丸井君が手を振っていた。
「かっこよく描いてくれよぃ」
「うん、がんばるよ。丸井君もがんばってね!」
「おう!じゃあ鶴見明後日学校でなー」
「おーす!がんばれよー!」
態々それを言いに来てくれたのかな。また元気に戻っていく丸井君を見送る。丸井君が建物の陰に隠れたところで、洸ちゃんは満足そうに笑って、私の背中を叩いた。
「いたい!なに!」
「んーふふー。青春だねぇ!」
「は?なにが?」
「まあまあ。帰ろうぜ。帰りにクレープでも奢ってやる」
「わーいクレープー!」
バッグの中に仕舞ったカメラに写る丸井君は、どの写真もとてもキラキラしていて、家に帰って絵を描くのがとても楽しみになった。
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