「お前昨日由紀子とデートしてくれたんだって?」
「んぐっほおぇっ」
思いっきり変なところに入ったオレンジジュースにむせれば、犯人鶴見はニヤニヤと俺を見ていた。
13:秋空の屋上にて
なんとなく周りに聞かれたくなくて、鶴見を連れて屋上へ上がった。少し肌寒い秋の風がするりと俺たちの間をすり抜ける。やっとブレザーが解禁になったが、俺はまだブレザーでは暑くて、ニットのベストのみにしている。仁王に関してはすぐにブレザーを羽織っていた。あいつ寒がりだしな。
「もう冬も近いなー」
そう言った鶴見はニットのカーディガンを羽織って薄い青の空を見上げていた。刷毛で乱暴に線を書いたようなかすれた雲が流れていく。
「で、デートどうだった?」
「!…っだからデートじゃねー…って…」
「ふーん、そうか。まあデートだろうがそうでなかろうがどっちでもいいんだけど」
「はあ!?」
バスケ部ということもあってか無駄に背の高い鶴見は、無駄に長い足であっという間にフェンスの前までたどり着くと、くるりとこちらに体を向けて、フェンスに背中を預けた。
「じゃあ何であいつだけ誘ったわけ?」
さっきまでニヤニヤしていた鶴見が、少し真剣な面持ちで聞いてくる。調子狂うな。
「…こないだ勉強見てもらったお礼がしたかったんだよぃ。おかげで中間テストもいい点取れたし」
なんとなく鶴見の目を見れずに、屋上の床のタイルを見ていた。
「…ま、そういうことかとは思ったけど!」
にっと笑った鶴見は、さっぱりした秋空が似合うな、とふと思った。
「昨日由紀子が、楽しかったってさ。ケーキも紅茶もおいしくて、雰囲気がとても素敵な喫茶店だったって嬉しそうに報告してきた」
「…へー、」
「…丸井。単刀直入に、由紀子のこと好き?」
鶴見は静かに微笑んでいた。なんか、こう、見守る目というか、なんというか。だけどその表情は、切なげに揺らいでいる気もした。戸田ちゃんのことを真剣に考えていることがよくわかる。普段のテンションの高い鶴見とはかけ離れた、静かなまなざし。俺はこの質問には真っ直ぐに答えなければ、今後自分までも後悔するような、そんな気がして、静かに息を吐いた。
「………出会ったばっかで、こんな感情はおかしいんじゃないかとも思う、わかってんだよぃ。もしかしたらまだ、好きとは違うような気もする。けど、今まで関わってきた女子たちに抱かなかったような感情が、戸田ちゃんに向いてるのは確かだ」
「……そっかそっか。ははっ」
嬉しそうに笑った鶴見は、はー、と大きく息を吐いた。
「俺、幼馴染として、由紀子の事が好きだ。小さい頃からいつも一緒に居たからなんと言うか、兄弟…双子の片割れみたいな、俺にとってそんな感じなんだ、アイツ」
学校特有の間延びしたチャイムが響く。授業に出る気にはなれず、このまま鶴見とサボることにした。俺もフェンスに近付き、フェンスに体を預ける鶴見の横から無人のグラウンドを覗いた。
「丸井になら、いいと思ってる」
「あ?」
「丸井になら由紀子の事、やってもいいと思ってんだ、俺」
「…ふはっ、お前は親父かよ!」
そう言って笑えば、鶴見も安心したように笑った。
「二人がこの先どうなっても、二人の自由にして欲しい。俺が何か言う事じゃないし。けど、けど…」
「わかってんよ。まあ、まだ早いからさ。俺の気持ちだけじゃどうにもならないし」
そう。まだ、はっきり俺の中で整理が付くまで。もっともっと彼女に本気になるまで。勘違いだけで傷つけたくはない。もっと様子を見ていたい。
「ごめん、おせっかいだな」
「んにゃ。お前はいい幼馴染だとおもうぜぃ」
秋空が綺麗だ。澄んだ空気を体に纏いながら、無機質な硬いタイルに寝転んだ。
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