「よーし、名前書いたら裏返せよー。全員裏返したか?いいなー?…3、2、1…はじめー」

今日の試験監督はいつもテキトーな数学教師。ちなみに担任。気の抜けそうになるスタートの合図に、全員一斉にテスト用紙を裏返した。



11:ふとした時に



こないだから鶴見の家で戸田ちゃんに勉強教えてもらって、だいぶ試験範囲をカバーできた。文章題をこんなスラスラ解けるの初めてなんじゃねーの、ってくらいの理解度。うおー、やべー。

「丸井君飲み込み早いし、落ち着いて解けば点数行くんじゃない?」

ふと、戸田ちゃんの声が耳元でした気がした。そうだ、舞い上がっても失敗するだけだ。落ち着こう。ふう、と息を吐いて、次の問題に差しかかる。あ、ここ、戸田ちゃんとやったとこ。あ、これも見覚えあるなあ。戸田ちゃんと勉強してたときの情景が頭に浮かんで、口元が緩む。

「あ、それ美味しそう」

「これ新作なんだよぃ。食う?」

「え?いいの?わーい」

俺が持ってきた新作のチョコを指で摘んで口に運んでうまそーに食う戸田ちゃん。あー、可愛いよなぁ、戸田ちゃん。っていうとこまで考えてはっとした。集中、集中…。それからはのめりこむように集中できて、あっという間にテストが終わった。解答用紙、全部埋まった…。教室内が一気にざわつき、後ろから回収係が回収していく。テスト用紙の束に吸い込まれていく俺の解答用紙を見ながら、へへ、と喧騒にまぎれて少しだけ笑った。

「なあブンちゃん。お前さん最近ちょっと変じゃなか?」

「はあ?何がだよぃ」

「お前さん、ようニヤニヤしとんよ」

帰り際、荷物をまとめていれば、仁王が近付いてきて唐突にそう言った。既に準備は終わったらしい仁王が、俺の前の席の椅子を引いて、反対向きに座る。はあ?わけわかんねえこと言うなよぃ。…って否定するはずだった。でも自覚があった。最近、なんとなく。頭に真っ先に浮かんだのは、戸田ちゃんの顔だった。

「わかりやすいのぅ」

「うるっせ」

若干顔が熱いが、それに気づかないフリをしてさっさと準備を進めた。







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