百物語十二ノ話「妖狐」



ある村のある神社の裏手に森があり
それを抜けた所に
綺麗な景色が見える丘があった。

そこに二つ並べられた墓石の前では
墓の下に眠る二人を恩人とする妖狐が
酒を飲みながら座っていた

「なぁ…俺ら、何歳?」

銀時の疑問に少し十四郎は
考えたが、やがて
どうでもよくなったのか
「…わかんねェ」と後ろに手をつき
空を見上げた

「…変わんねーのは俺達だけか」

そう言い銀時も空を見た

この二人…いや、二匹は
齢を二千を優に超える妖狐である

銀の毛並みを持つ銀時
黒の毛並みを持つ十四郎

この二匹の名は別々の人物が
数百年も前に付けた名である。
銀時は吉田松陽
十四郎は近藤勲
数百年経った今でも
二人と二匹で一緒に居た時は
薄れたことのない記憶だ…

「あの二人には感謝してもしきれねェ
 こうやって十四郎にも逢えたし」

「そうだな」

「アラ、素直。
 そんなとこも好きよ」

「てめー殴られてェか」

銀時は幸福を齎すと言い
ある國で軟禁状態に
十四郎は平和の象徴として
ある國で祀られていた
会うことのない二匹が
今、想い合う者として一緒に居るのには
二人の恩人が当然、関係している

「俺、十四郎に逢えて
 本当に良かったと思う」

「なんだよ…今日は一段とキモいな」

「今日はってなに!?
 俺はそんな十四郎も大好きでっす!」

「今日ぐれェ静かに出来ねェのか」

十四郎は少し怒気を含んだ
声で言うと酒を煽った

「飲みすぎじゃねーの?」

「大丈夫だよ、そう言う
 てめーは飲んでんのかよ」

「飲んでるよ」

二人は歳も若い内に死んでしまった。
二匹を置いて…
二人はお人好しだった
二人は別々のことに首を突っ込み
二人は死んで逝った。
二匹は二人が死んだ時
二人を殺した人間を
闇に紛れ殺めそうになったが、
二人の言葉を思い出し
なんとか踏みとどまった

─銀時、復讐心とは
 心が在るものには必ず、
 芽生える物なのです。
 ですが、
 それを育ててはいけませんよ…
 摘んでしまうのです。
 前へ進む行動をし、
 摘んでしまうのです。─

─トシ、復讐ってのはな
 次から次に生まれるんだ
 膿みてェなモンかな
 潰せばそこからまたバイキンが入って
 膿がたまるだろ?
 復讐ってのはそれと一緒なんだ。
 だから復讐だけは絶対、絶対
 しちゃいけねーよ?─

二匹は二日間、墓の前で泣き続けた
何も食べず、飲まず泣き続けた
前へ進むために。

「先生、元気やってっかな?」
「どうせ近藤さんと一緒に天国で
 何かに首突っ込んでるよ」

丘の上の並んだ墓には花が絶えない。

二匹が持ってくるのもあるが
生前救った者の子孫までもが
今だに花を持ってくるのだ
俺が、私が、ココに居るのは
このお二人のお陰なのだ。と
小さい頃から聞かされているらしい
定期的に訪れては
墓を磨き、花を置き、
酒をついで帰って行くのだ

「尊敬するなー…」
「当然だ。二人を誰だと思ってる」

今日も丘の上の二人の墓には
花と酒が置かれ
二匹の見下ろす國は
どの國よりも平和で幸せに
満ち溢れている…

***


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