「お、早かったなあ承太郎」
 声を掛けると固まっていた恋人の眉間がくしゃりと歪んだ。ソファに座って洗濯物を畳んでいるポルナレフの方へ乱暴な足音を立てて近寄ってきて、威勢の良い掛け声と共に星の白金にひょいと抱き上げられる。手にしていたタオルを洗濯物の山に返されて口をへの字に曲げた。
「てめー、寝てろって言っただろうが」
「だってよォ、暇なんだよ。もう熱引いたし」
「薬が効いてるだけだろう。大人しくしてろ」
 地を這うような低音にも挫けず抗議したが取り付く島もない。子供っぽく足を揺らしてみても無言で抱き直されるだけだった。
 そうこうしている内にベッドへ放り出される。分厚い毛布を肩まで掛けられて息苦しいが、見上げた恋人の瞳が心配そうに揺れているのを見て何もいえなくなってしまう。
「…食欲は?」
「あんまり」
「わかった」
 外は寒かったんだろう、ひんやりとした指先が額に添えられて肩が震える。
「食いやすいモン持ってくるからじっとしてろよ」
「わーかったよ、メルシー」
 散々寝たからもう熱なんてないのだけれど、なんだかんだ心配性な承太郎は完治するまで世話を焼きたいらしい。首筋を撫でる指が気遣わしげで、ガキでもねえのにと笑ってしまう。ぽんぽんと寝かしつけるようにお腹辺りを叩いたのを最後に承太郎は部屋を出て行った。
ごろんと寝返りを打って毛布を抱き締める。枕元には体温計や水分補給用だったペットボトルがそのままにしてあるだけで、暇を潰せるようなものは当然ない。でもじっとしてないとまた怒られるんだろうなあ。熱の名残か、寝過ぎたせいか、体は少し重いままだ。いつも二人で横になっているベッドに一人、どうにも落ち着かない。
夕飯を聞かれたから構ってもらえるまで一時間以上は掛かるだろう。退屈だ。仰向けに寝返ってぼんやりと天井を見つめる。自然と耳をすませるような形になればリビングからライターを付ける音が聞こえる。
何とはなしに瞼を閉じる。眠気など堪能しきっているので脳裏に恋人を描くことにした。地面を伝い空気を震わせる生活音を頼りになにをしているか、思い描いた。
静かな足音、ビニール袋が立てるガサガサという音、しばらくして流水がシンクを打つ。料理かな。さっきは治ったって豪語したけど、まだ重い飯は食えなさそうなんだよな。昨日はうどんなるものを食べさせてもらった。今日はどんなモンが出てくるんだろう。
料理が出来ない訳じゃあない承太郎は率先して手作り料理を振舞ったりはしない。曰く、お前の方が上手いし早いだろうとのこと。間違っちゃいないがたまには自作以外を楽しみたいと散々ねだってようやく全体的に茶色っぽい日本食というご馳走にありつけた。素直な感想を述べつつ完食したときの照れくさそうな口元が可愛くて、仕事が出来ないと文句を付ける承太郎のひざを寝るまで陣取ってやったのだ。
もう一年くらい前か。感慨深く胸が和やかになり毛布を抱き締める腕に力が篭った。
いま、すげえ抱き締めたい。家事なんてあとでいいから今すぐ来てよ。
背を向けたドアから生活音は鳴りやまない。

(2014.03.15)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -