談話室の隅っこに座っていつも何かを描いている名前は人見知りなのか、喋っているところもあまり見ないし、誰かと一緒にいるところも見ない。日本人はシャイだと聞いてはいたけれど、名前はそれに輪をかけていた。

これは流石にシャイすぎだろうって、フレッドは笑って言ってたけど、僕はそうは思わなかった。なんて言うか、確かに名前はすぐに顔が真っ赤になったり、言葉もたどたどしいけれど、いつも一生懸命に何かを伝えようとしているのを知っている。うーん、ちょっと違うかな…知っているっていうか、見てて分かったっていうのかも。それだけ、僕が名前を見ていたってことでもあるんだけどね。

そんな名前は大抵の時間を一人で過ごしていることが多くて、中でも談話室の隅っこでスケッチブックに向かっている時間が一番多い。何を描いているのか、分からないけれど、とても楽しそうに描いているからそんな感じの絵なんじゃないかなと思うんだ。ただ、実際にはどんな絵なのか、誰も見たことがないから分からないっていうのが正直なところだ。

たまたま、その日は談話室に誰も居なくて僕と名前の二人きりだった。いつものように定位置となっている場所でスケッチブックに向かって何かをひたすらに描く名前に声を掛けた。ガラにもなく緊張して、声が上擦ったのはフレッドには内緒だ。言ったら絶対に笑われるからね。

「なあ、何を描いているんだ?」

「っ、……ウィーズリーくんっ」

「ウィーズリーくんだなんて、よそよそしいな。それにウィーズリーって名前なら、この学校じゃ何人もいるよ。だから、ジョージでいいよ」

「……じょ、ジョージくん」

「なーに?名前」

小さく俯きながら、抱えているスケッチブックを差し出された。何が描いてあるんだろうって、覗き込めば、そこにあるのは真っ白なスケッチブックだけ。あれ?確かに描いてたはずなんだけどな。

「名前、これ…真っ白だ」

「あ、えーと…それ、透明ないろえんぴつで描いてあるの」

「透明ないろえんぴつ?なんだい、それは?」

えーとと言葉を探しながら、話す名前に聞き漏らさないように耳を傾ける。

「このいろえんぴつには妖精の涙が混ぜてあってね、日本の妖精にしかないんだけど、妖精の粉をふりかけると絵が浮かび上がるの。――ほら!」

小さな小瓶に入っているキラキラと光る粉が妖精の粉らしい。妖精の粉とは妖精の羽に付いている鱗粉のことで、これもまた日本の妖精にしかないものらしい。とても貴重なものらしく、なかなか手に入らないらしい。だけど、名前は妖精から小さい頃にもらったんだと言っていた。なんか友達になったらしい。

「すごい!これ、ホグワーツ城だろう?上手いな」

「そ、そうかな?あ、えっと、ジョージくんの絵もあるよ」

ほらと見せてもらったページには、笑っている僕、とフレッドとリーの絵が描かれていた。名前の目には、僕はこんなに楽しそうに見えているんだ。僕ってこんな風に笑っているんだ。知らなかったな。

「ねぇ、名前。日本の妖精について教えてくれるかい?」

「う、うん。いいよ」

そうして教えてくれたのはイギリスにいる妖精と180度違っていた。日本の妖精はイギリスと違ってもっと可愛らしい姿をしていて、いたずらや悪さだけじゃなくて、子供を楽しませるのが日本の妖精なんだと、そう言っていた。

「へぇ。それじゃあ、こっちに来て、驚いただろ?ピクシー小妖精とか」

「うん、びっくりした。それにね、日本の妖精は頭もよくって、おはなし出来るんだよ」

「すごいな。僕も会ってみたいよ、そんな妖精に」

「あ、会えるよ、きっと!ジョージくんが、日本に来てくれたら…たぶん」

あはは、多分なんだと笑うと、顔を赤くしながら、俯いてしまった。うーん、ちょっとからかいすぎたかな?慌てて、ごめんと謝るとふるふると首を振って謝らないでと言われる。

「でも、名前を悲しませた」

「そんなことない!わたしが、気にしすぎた、だけなの。ジョージくんに悪いことしちゃった……」

「そんな、気にするなよ。それに僕は名前と話せて嬉しかったし、楽しかったから」

「わ、わたしも…!あの、これ…あとで見て」

それじゃあ、と談話室から、駆け足で寮への階段を上って行く名前の背を見送った。その後すぐにフレッドたちがやってきて、手に持っている羊皮紙をニヤニヤ見ていたけれど、突然、つまらなそうな顔で返された。

「なんだ、ラブレターかと思ったのに…ただの羊皮紙の切れ端じゃないか」

「なんだってなんだよ。それにラブレターって……なんだって!?ただの羊皮紙の切れ端?」

フレッドに言われたように名前から手渡された羊皮紙には何も書いていなかった。けれど、ポケットにある小さな膨らみと、この重みから…もしかして、と思い寮への階段を駆け上った。

ポケットから出てきたのは、妖精の粉が入った小さな小瓶で、コルクで栓がしてある。ポンッと小気味よい音を立ててコルクが抜ける。少しだけ粉をかけると浮かび上がる文字に僕は息を呑んだ。

――妖精の涙と妖精の粉は、お互いが想い合ってないと見ることが出来ないんだよ。ジョージくんに見えるってことは、そういうこと、なのかな…?それにね、わたしジョージくんとおはなしするの、緊張しちゃうけどすき。

「どうしよう…僕、嬉しすぎて、どうにかなりそうだよ」

羊皮紙に書かれていることが本当なら、僕らはお互い想い合っているということ。つまりは、好き――両想いってことだ。

それに僕と話すのが好きだなんて、ほんとに名前はどれだけ僕を喜ばせる気なんだろう。

今すぐ、君に会いに行こう。
この気持ちを伝えに行くよ。



透明ないろえんぴつ
(君と僕の秘密のお喋り)

   
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