「ふぁー・・・おはよ、お兄ちゃん」

ほのかに漂う味噌汁の香り・・・食卓の匂いで目を覚ました美朱。

「おー、おはよう」

台所で朝食をつくるエプロン姿の兄。見慣れた朝の光景。

(慣れたもんだなー・・・全然眠くねぇ・・・)

バイトから帰って来たのが朝五時半くらいだから・・・まだ三十分しか経ってないな。
こんな生活繰り返すと・・・眠いというより、目ぇギンギンでかえって眠れなくなる・・・。

「?お兄ちゃん目赤いよ?」
「あー・・・顔洗ってたら洗顔料目に入ってなー」
「うわー、ドジ」
「美朱には言われたくないぞ」

まぁ、そこはさらっと嘘をついて。
・・・いやでも、実際洗顔料目に入るとすっごい痛ぇのよ。どっちにしろ後で目薬目薬。





「じゃ、行ってきまーす」
「おう、いってらっしゃい」





朝食が終わって、美朱が学校へ行く時間になった。
食卓の食器をきちんと洗って棚に戻して。
今日の大学は休講。
くぁ、と伸びをして。
美朱が帰って来るまで眠ろうかと思ったが。



『あのね、昨日図書館でね・・・』



「・・・・」

昨日の美朱の一言が非常に気になる。
図書館で・・・・・何だ?何があった?



『図書館で・・・素敵な人と出会っちゃった!』



(ぬぅおおおお!!そんなラブコメはいらん!!)

考えただけで嫉妬の炎がどす黒く燃え上がった。

(・・・そういや、アイツ日記書いてたよな・・・)

ふとそのことを思い出し・・・悪いとは思いながらも美朱の部屋に忍び込んだ・・・。




"・・・図書館で不思議な本を見つけた。名前は四神天地書・・・中国の和訳小説みたい。
その途中で、地震が起こった。その時、びっくりしたのかしばらく気絶してたのかも。
ちょっと長い夢を見た・・・私と唯ちゃんがどっか広い荒野に真ん中に突っ立ってて・・・私達が人攫いに襲われる夢。
でも、その時!ヒーローみたいに男の子が現れて助けてくれた!
ちょっとセコかったけどかっこいい男の子だった。もう一度会いたいなぁ・・・"




日記を読んだ後の紅蓮は般若のような形相だった・・・。

(悪い虫はっけ〜ん・・・!!夢とは言え俺の妹をたぶらかすたぁいい度胸じゃぁあ・・・!!)

夢にすら嫉妬する・・・本当に色々な意味で怖い兄だ・・。

「・・・四神天地書、ねぇ・・・」

冷静さを取り戻し考えてみる・・・中国哲学で有名な書物はほとんど読み尽くしたはずだ。
四神というのはそのカテゴリだけでも有名だ・・・大学には本は揃っている。
・・・題名に<四神>とついているのに、そんな本見たことも聞いたことも無い。
それに・・・。

(・・昨日地震なんてあったか・・・?)

美朱が体験したという地震・・・昨日、自分は揺れなんてちっとも感じなかった。
ニュースでもそんな情報は流れていない。

(・・・行ってみるか、図書館)


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