ゲンガーとマツバ
マツバに連れられ、エンジュの外れにある山にたどり着いた。移動に時間がかかったのもあり、辺りはすでに夜になった。もちろん母親には友達の家にとまると連絡済みだ。心配をかけるのはわかっているが、一度引き受けた手前、今さら帰ってしまうのも嫌だし。
「なあマツバ、まだなのか?」
もう大分深くまで来たのでマツバに訪ねてみる。
「う、うん。いつもならもう囲まれているんだけど……」
言葉に力がないので、どうかしたのかと訪ねると、マツバは首を左右に降り否定した。でも暗くてはっきりとはしないけどマツバの顔色が悪いような気がする。
「おいマツバ! 本当に大丈夫なのか?」
「平気……でもなんか山に入ってから頭がいたくて……」
「全然平気じゃないだろ……今日は切り上げてまたあした来ようぜ」
「……そうだね。じゃあ戻ろうか」
そうして俺たちは一匹のゴースに出会う事もなく引き返すことにした。
それから大分歩いた、だが見える景色は変わらない。確実に引き返しているはずなのに、気がつくと同じ道に戻っている。なにかがおかしいと俺たちが確信したとき異変は起きた。
「おいマツバ! あれ見てみろ!」
森の奥を指差す。指の先にはにやりとした笑顔でこちらを見ているゲンガーがいた。
「今までのことはこいつの仕業だったのか……」
「そう……だね……。くっ」
明らかに様子がおかしいので隣を見ると、マツバか頭を抱えて膝をついていた。
「おいどうした! 大丈夫か?」
俺が慌てて近づくと、マツバは焦点の会わない虚ろな目をして、脂汗を流し、ガタガタと震えながら何かを呟いていた。
「……イタイ……コワイ…………」
このままじゃヤバイと感じた俺は心の中で謝罪しながら、マツバの頭を思いきり叩いた。するとマツバは目を見開き、キョロキョロと辺りを見回した。
「おい、大丈夫か?」
「ぼくは……なにを……」
「虚ろな目でなんか呟いてたぜ、たしか……痛いとか怖いとか」
「そうだ! ぼくは今あのゲンガーの……」
話を聞くと、あのゲンガーは最近までどこかの研究所のような所で人間にひどい目に遭わされていたらしい。人間が憎くて俺たちを道に迷わせているようだ。周りのゴースやゴーストたちもゲンガーによって操られているみたいだ。
「じゃああのゲンガーを何とかしなくちゃいけないのか……」
でもどうやって? あのゲンガーはすごく警戒していて、話を聞いてくれそうにないし、力ずくは、ポケモンを持っていない俺たちでは無理だ。
「ぼくがゲットする」
「は? マツバ本気で言ってるのか? 相手はそこらのゴースじゃなくて最終進化形のゲンガーだし、何よりあいつは人間が嫌いなんだろ? そんなやつがおとなしくボールに入ってくれるわけねーだろ!」
「それでもゲットする! あいつはぼくに夢を見せた、きっと心の奥で助けてほしいって思ってるんだ!」
今までの気弱で頼りない表情から一変して、気迫のこもった表情に一瞬たじろいたが、マツバの目を見ながら深く頷いた。
「マツバがそうしたいならそうしろ。おれは何も言わない」
「……ありがとう」
そう言うとマツバは、ゲンガーの元へと近づいていった。途中のゴースたちの妨害なども、ものともしなかった。
マツバが危険でないことがわかるのか、ゲンガーは技を使用することはなかった。だが、マツバが触れようとすると振り払ったり、突き飛ばしたりした。ダメージばさほど無さそうだが、もうマツバはボロボロになっていた。
そんな地味な攻防が続いたとき、突然ゲンガーが大声でなき、マツバに突っ込んでいった。マツバは避けようとしない。
「バカマツバ! よけろ!」
俺はとっさに叫んだ。だがマツバはチラとこちらを見るだけで、やはり避けない。
そして、マツバは突っ込んできたゲンガーを受け止め、られたかは別として……一緒に地面に倒れ込んだ。
するとさっきまでふよふよと漂っていたゴースたちが自らの意思で動き始めた。
なんだかよくわからないが、マツバは成功したらしい。俺は一息つくと、いまだに倒れたままのマツバへと近づく。
「マツバよくやったな……って寝てるし」
疲れたのか、安心したのか、マツバは腕にゲンガーを抱きながらぐっすりと眠っていた。心なしかゲンガーも嬉しそうに見えた。
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すごく……主人公です(マツバが)
カズヤ空気乙!
名前変換ってどんなときに使うんだろう……
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