異様なバトル
一度冷静になった二人は、息を潜めてそっと茂みの奥を覗き込んだ。
そこには二人のトレーナーと思しき人影と、その手持ちであるポケモン。そしてそのポケモンたちと戦っている大きな野性ポケモンが見えた。
「わぁ……すごい! 本物のポケモンバトルだ!」
コトネは精一杯声を潜めながら、しかし興奮を隠せていない声音で言った。
普段間近でポケモンバトルを見る機会のないコトネとヒビキは目の前の光景に釘付けになった。
「ポケモンバトルはすごいけど……なんだか様子がおかしくない?」
ヒビキはあごに手を添え、ポケモンバトルの様子を観察しながら言った。
コトネはそれを見てもう一度茂みの奥を覗き込むが、なにがおかしいのかはよく分からなかった。
「そうかな? 何もおかしくないと思うけど……」
「なんだか、トレーナーの二人が何かを気にしてるような……」
そしてコトネはもう一度茂みの奥を覗き込む。今まではポケモンばかりを集中して見ていたがトレーナーの二人をじっくりと観察する。
すると、二人はしきりに辺りを見回したり、そわそわと落ち着きがないことに気がついた。
「たしかにそわそわしてるね……」
「でしょ? なんだか焦ってる……のかな?」
「何かを探しているようにも見えるかも」
そうして二人でひそひそと話していると、紫色のポケモンの技が野生ポケモンに当たり、野性ポケモンはドスンと大きな音を立てて地面に倒れた。
「えっもう終わり? もう少し見ていたかったのに……」
「いや、何かおかしいよ……。トレーナーの二人、全然喜んでない」
観察されているとは知らないトレーナーの二人は、野生のポケモンを倒したのにもかかわらず、険しい表情のまま辺りを見回している。手持ちのポケモンもボールに戻さないまま警戒態勢を崩していないのは、誰の目から見てもおかしかった。
コトネとヒビキの二人は何かがおかしい事に気が付き、しばらく茂みの奥を観察していた。
すると、何の前触れもないまま甲高い鳴き声と共に無数の木の実が野生ポケモンに投げつけられた。
コトネとヒビキはなにがおきたのか分からずしばらく呆然としていたが、木の実を投げつけられたポケモンは何事もなかったかのようにむくりと起き上がったのだ。
「なんで!? さっき倒したはずじゃないの?」
「……そうかわかった! さっきのは倒したんじゃなくて、眠らせただけだったんだ!」
ヒビキが気がついたとおり、先ほどドスンと大きな音を立てて倒れたポケモンだったが、それは先頭不能になったからではなかったのだ。紫色のポケモンから放たれた技で眠り状態になっていただけであり、一目見て分かるとおり、ダメージは一切負っていなかったのである。
「あのポケモンが寝てたのは分かったけど、さっきの鳴き声と木の実はなんだったんだろう?」
コトネが茂みの奥をぼんやりと見つめながら言った一言で、ヒビキは何かひらめいたようだった。
「たぶん……あの野生のポケモンの仲間なんじゃないかな……?」
「もしかして、さっきからあの人たちが探してるのってその仲間のことなのかも?」
コトネがそう言うと、ヒビキは大きくうなずき、静かに立ち上がった。
「ぼくたちで仲間を探して、あのポケモンの手助けをさせないようにしよう!」
「うん! 困った人を放っておけないもんね!」
そうして二人は足音を立てないように当たりを散策し始めた。先ほどまで考えなしに突っ走っていたコトネも今は慎重に辺りを見回している。さっきまで引き返そうと言っていたヒビキも今は二人のトレーナーのためにと、危険を顧みずに仲間探しをはじめた。
本来なら危険である為即座に引き返すのが正しい判断であるが、困っている人を放っておけない二人は、見ず知らずの二人のトレーナーのために行動を始めたのだった。
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