PUNCH!
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未来の可能性


 ――カズヤとマツバがリングマとの戦闘を開始した頃、ワカバタウンの外れでは・・・・・・。
 小さな男の子と女の子が二人で森を見つめていた。

「ねえコトネちゃん本当にいくの?」

 小柄な男の子が女の子のすそをつかみながら恐る恐る言った。コトネと呼ばれた少女は少年とは反対に楽しそうな満面の笑みである。

「もちろん! いくにきまってるじゃん!」
「で、でも、森の中はやせいのポケモンがでてあぶないって……」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! もしこわいポケモンがいたらこっそり逃げればいいんだよ! ヒビキくんは心配性だなあ」
「でも……」
「でも〜? ……わたしの誕生日を忘れてたのはだれかな〜?」
「ぐ……」


 そう、今日はコトネの誕生日なのだ。あろうことかヒビキはそれをすっかり忘れて、のんきに遊びに誘ったりするものだからコトネはプレゼントをもらえるものだと思って楽しみにしていた。が、本人はいつもとかわらずにのほほんと笑っているだけ。それに腹を立てたコトネは、普段両親や町の大人たちから口うるさく言われている言いつけを破って森の中へ探検に行こうと言い出したのだ。

 ヒビキと呼ばれた少年の言うことはもっともである。今現在カズヤとマツバが身にしみて分かっているだろうが、この森の中には危険がいっぱいである。いまは昼間だが一歩森の中に入れば生い茂った木々が邪魔で日の光は届かず、おかげで草は伸び放題でじめじめと薄気味の悪い空間が出来上がっており、奥に進むにつれ凶悪な野生ポケモンが飛び出す危険な場所だ。
 コトネは危機感がないのか、子供であるが故の無邪気さと好奇心なのか、森の中にはきっと楽しいこと、わくわくすることがたくさんあると思い込んでいる。普段ならヒビキにとめられ中に入ることはできないが、今日はコトネに負い目があり押せば折れることは確実である。


「それに! 今日は何でもわたしの言うこと聞くっていったのはヒビキくんじゃん!」
「そ、そうだけど……あぶないよー」
「もう! 男の子なんだからはっきりしてよ! ヒビキくんが行かないならわたし一人で行くから!」
「わかったから! 行くから! でも……あぶなくなったらすぐ引き返そうね?」
「はいはい、約束するから、いこ!」


 こうして二人は仲良く手をつなぎながら、森の奥へと進んでいった。



「ずいぶん奥の方まで来たね……」

 ヒビキは辺りを見回して言った。
 二人は運良く大きなポケモンには遭遇していなかった。ヒビキはほっと胸をなでおろし、コトネは不満そうな顔を隠そうとしていなかった。

「何かすごいことが起きるかもしれないと思ってここまで来たのに、出会ったのがキャタピーとコラッタばっかり! もっとかっこいいポケモンが見たかったのに!」
「これ以上奥に行ったら夕飯に間に合わなくなるよ? そろそろ帰ろう?」

 帰ろうと説得するヒビキだが、コトネはまだあきらめてはいないようだった。

「もう少し! もう少しだけ! 急いで帰れば夕飯にも間に合うって!」

 そういってコトネはヒビキの手を引いて森の奥へと進んでいった。辺りは不気味さをまし、霧が立ち込めていることにも気づかぬまま一心不乱に奥を目指すコトネとは対照的に、ヒビキはいやな予感のようなものをひしひしと感じていた。
 しかし、コトネはそれに気がつかないのか、見ない振りをしているのか、気にした様子もなくスイスイと奥へと進んでいく。

 ヒビキがもう一度引き返そうと説得をしようとした時、ポケモンの小さな悲鳴が聞こえた。

「ヒビキくん! 今の!」

 その声を耳ざとく聞きつけたコトネはヒビキの返事も待たぬまま声の聞こえた方へと走り出した。

「待ってよコトネちゃん!」

 周りを見ずに飛び出したコトネを追いかけてヒビキも走り出す。声の聞こえてきた方へ近づいていくと、ポケモンの泣き声だけではなく人間の声も聞こえてきた。しかも一人ではない。
 茂みを越えれば現場にたどり着くだろうというところでヒビキはコトネに追いつき、引き止めた。

「なに……」
「コトネちゃん落ち着いて! このまま何も考えずに飛び出しちゃだめだ!」

 ヒビキは小声で、しかし明確な意思を持った声でコトネに言った。
 コトネはその声で落ち着きを取り戻し、国利と頷いた。

「まずは様子を見なくちゃ……あっちでなにが起こっているのか」

 そうして二人はできる限り息を潜めて茂みの奥を観察し始めたのだった。


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