マツバのゲンガー
夢主名前はカズヤで固定
カズヤ(8)
マツバがゲンガーを捕まえて間もない頃、あのときのゲンガーはマツバ以外の人間には全く近寄らなかった。
マツバが人間は怖くないと何度も言い聞かせたが、一度生まれたトラウマはそう簡単に消えないのだろう。かくいう俺も、その場に居たにも関わらず、全くなついてもらえなかった。
俺とマツバは縁側で茶を飲んでまったりすることが多い。ゲンガーはその様子を遠くから覗いていたのだが、ある時から俺たちの視界のすみに居るようになった。それがいつの間にかマツバの近くによって見たり、俺んちとは違う豪華な庭で走り回ったりと、俺が居ても気にならなくなったある日、いつも通りにまったりしていると、マツバが家の人に呼ばれていってしまった。
もちろんゲンガーも着いていくものだと思ったが、俺の予想を裏切り、ゲンガーはマツバがいたスペースをぽっかり開けたままとなりに座っていたのだ。
なんとも言えない微妙な空気が流れるが、俺からちょっかいをかけるわけにはいかない。そう思い、なるべくゲンガーを気にかけないように気を付けながらお茶を楽しんだ。聡い人は気がつくだろうが、気を付けている時点で気にかけているのだが、あのときの俺はいっぱいいっぱいだったのだ。
脳内でぐるぐるととりとめのないことを考えているうちに、隣にいたゲンガーは姿を消していた。
やっぱりまだなついてくれないのかとがっかりはしたが、ようやく気を張る必要がなくなったと、無意識で入っていた力を抜いて大きなため息をついた、ら。
――べろり
「ひ、ぃぎゃぁああ!!」
思わず反射で首を押さえ後ろを振り向くと、俺の背後にはにやにやとした笑いを隠そうともしないゲンガーの姿が。
今、舐められた……よな? 舐められた驚きと、あのゲンガーのはじめてのいたずらに呆気にとられ、数秒間動きも思考も止まる。
急に動きを止めた俺を心配に思ったのか、俺の目の前でヒラヒラとゲンガーが手を降る。
はっと我にかえり、今まで近寄りすらしなかったゲンガーに心を許されたことへの喜びと、なにも驚かせることはないじゃないか、つーか変な声出た! という怒りと羞恥がむくむくと沸き上がり、爆発した。
「て、てめぇえええ! 行きなり何すんだアホ!」
俺が叫べば嬉々として逃げ出すゲンガーを、俺も結構本気で追いかける。捕まえてくすぐりの刑に処する!
このあと、俺が意気揚々とくすぐっていると、戻ってきたマツバに盛大なため息と拳骨をいただいたのだった。
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