リングマとヒメグマ
おはようございます。爽やかな朝ですね。窓から差し込む光に誘われ目を覚まし、ぼんやりする頭で昨日の出来事を振り返る。暖かい室内では身の危険を感じることもなく、昨日の事は夢だったんじゃないか、まだ自分はキキョウシティのポケモンセンターに居るんじゃないかと思いたくなる。が、窓の外を見ればどこもかしこも雪景色。どう考えてもシロガネやまです本当にありがとうございました。
現実逃避もそこそこに、朝食を食べながらこれからの事について話す。
「昨日は散々だったなぁ」
「本当にね。僕あのまま人生の幕を下ろすかと思ったよ」
「笑えない冗談だ……」
お互いに苦笑いのまま本題に移る。
「問題はどうやって戻るかだよなぁ……」
「来るときは無我夢中で道なんて覚えてないしね」
「太陽も見えないんじゃ、方角もわからないしなぁ」
「困ったね」
まさに八方塞がり。どうしたものか……顔を付き合わせて案を出し会うもいい案は浮かばず。もう諦めムードただよう中、ジョーイさんの助手であるラッキーが、昨日預けたポケモンたちの入ったボールをもってきた。そこに見慣れないポケモンが一匹。
それは昨日マツバがずっと腕に抱えていた紫のポケモン、ムウマだった。
ムウマはゲームの中でもシロガネ付近にしか生息していないポケモンだ。今思えばどう考えてもシロガネ山フラグだよなぁ……うかつだった。
「この子に聞いて森を抜けるって言うのは?」
「昨日捕まえたばかりなのに頼りになるのかよ……」
げんなりしながらムウマを見ると、心外だとでも言うように頬を膨らませていた。かわいい。
俺の心を見透かしたのか何なのか、ガーディが俺の周りをぐるぐると回って自己主張してきた。もちろんお前の事もかわいいと思ってるよ、なんたってモフモフでさわり心地がいい。
ガーディの頭を撫でると千切れんばかりに尻尾を降りながら俺の手に噛みついてきた。これさえなかったらいいんだけどなぁ……。
ムウマは若干頼りにならないが、他にいい案もなく、これ以上粘ってもどうにもならなそうなので出発することにした。
「もし途中で野生のポケモンにあったらばれないように逃げる。みつかっちまったら全力で逃げる。いいな?」
「わかってるよ。ここのポケモンには歯がたたないことは昨日身をもって知ったからね」
「なら出発だ!」
当初の作戦通り、ムウマを先頭に回りに気を付けながら草むらの中を進む。途中何度か野生のポケモンに遭遇しそうになったが、見つかることなく順調に草むらを抜けた。
この先は薄暗く日の光も届かない森だ。ムウマの導く道が正しければ夕方には無事にワカバタウンにつけるだろう。
しばらく歩き続けると、前を進んでいたムウマが突然声をあげ、マツバの後ろに逃げ込んだ。
何が起きたのかと周りを見回すと、デジャビュ。いつぞやのリングマとヒメグマがこちらを見ていた。
リングマはこちらを見つけるや否や即座に戦闘体制にはいった。どうやら逃がしてくれるつもりはないようだ。
「どうするカズヤ。逃げられなさそうだけど」
「逃げられないならやるしかないだろ……!」
正直勝てる見込みはない。が、わざわざ負けに行くほど馬鹿じゃない。
相手はノーマルタイプのリングマ、ゴーストタイプの多いこちらの方が有利に見える。しかし圧倒的レベル差とこちらの決定打のなさがあるため長期戦を覚悟しなければならないだろう。それまでに逃げるチャンスを作らなければ……。
おそらくあちらの方が足が速い。普通に行けばまず逃げることはできないだろう。相手を足止めするしかない。
ならばやることは一つだった。
「攻撃に当たらない事を第一に考えつつさいみんじゅつだ!」
せせこましい作戦なのは俺が一番分かってるから言うな!
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