最悪の事態
いやいやながらも森に入った俺は、はやるマツバをなだめすかしながら慎重に進んでいた。
今のところさしたる問題もなく、出てくるポケモンといえばキャタピーやパラスなどの虫ポケモンが多く、ウバメの森に近い感じだった。
「特に珍しいポケモンはいないな」
「そうだね、ゴーストタイプのポケモンも見当たらないし」
だから引き返そう! と言おうとしたところで俺たちの前を紫の何かが通り過ぎた。
「今の!」
「え、えぇ〜……まじかよ……」
今まさに引き返そうとしたときに現れるとは、タイミングがいいのか悪いのか……紫色のポケモンはゴーストタイプの可能性が高い。きっとマツバが"見た"というのはあれのことだろう。
ぐるぐると考えているうちにマツバはすでにそれを追いかけていた。
「あ、待てよ! 個人行動は危険だっての!」
「たく……マツバのやつ、いったいどこに行ったんだ?」
あれから必死に追いかけたものの、途中から深い霧がかかり結局マツバを見失ってしまった。こんの森の中で迷子とかマジでシャレにならない。しかたないのでいったん引き返して様子を見よう。まさかマツバも紫のポケモンを捕まえたり見失ったりしたら戻ってくるだろうし、夜だからなのか、だんだん寒さが厳しくなってきたし。まさかマツバもキャタピーたちに苦戦なんてしないだろうし、な……
「あ、ああああああああ!?」
ヤバイヤバイ! すっげえヤバイ! よく考えればわかることだった、ワカバタウンの北の森をずっと北上していくとどこに着くのか。もちろんそれは『シロガネやま』だ。
そのことに思い当った瞬間に俺の体は反転し走り出していた。
シロガネやまとは、ゲーム上ではジョウト、カントーのジムバッチをすべて集めてからでないと入ることができないマップである。ただでさえ野生のレベルの高めだったシロガネやまだ、きっとポケモンも凶悪になっているに違いない。ゲームでは確か、40前後だったレベルもこの世界ではあてにならないことは十分承知している。
「無事でいてくれよ……マツバ……!」
飛び出してくるキャタピーやパラスのことごとくを無視して俺は必死に走った。
どのくらい走ったのかは分からない。俺の周りには濃い霧が立ち込め、さっきよりも寒さが厳しくなった。さっきまではウザいくらいに飛び出してきたポケモンたちが全く見当たらなくなり、遠くから獣の唸り声が聞こえたような気がした。
俺はいつポケモンが飛び出してきてもいいようにゴーストとガーディをボールから出し、慎重に進んでいった。
いつの間にか森の霧は晴れ、森の木々の間隔が広くなっていることに気がついた。日の光すら入らなかった森に月の光が入り込んでいる。きっともうシロガネやまのふもとに入っているのだろう。
うろうろとさまよっていると、おとなしく隣を歩いていたガーディが俺のズボンの裾を噛んだ。そしてある一か所を目指して走り出した。きっとマツバのにおいを嗅ぎつけたのだろう。そうだと信じたい。
そして俺たちが到着したときに見たものは、紫色の何かを抱えたマツバと、ボロボロになったゴースとゲンガー。その目の前には泣いているヒメグマと明らかに怒っているリングマだった。
――最悪だ!
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