ワカバタウンの森
「うわー……これは想像以上だな」
キキョウシティを後にした俺たちは太陽がもうすぐ沈むという時間にワカバタウンに到着した。
ゲーム画面でも民家の数が少なく、フレンドリィショップはもちろんポケモンセンターすらない田舎町という印象だったのだが、実際に目にしてみると想像を榛名に超えていた。"タウン"と名のつく街は基本的に何もないのだが、はたしてこれを町としてもいいのかどうか……。
一言で言うと風車がたくさん建っている集落という感じだろうか。とにかく何もない。研究所すらない。ウツギ博士はまだこの町に研究所を建てていないらしい。
主人公宅を訪問してみたいなあなんて考えていたりもしたが、正直どれがその民家かどうかも分からないし、自分の家でもないのに勝手に入るなんて言語道断である。
「ポケモンたちも伸び伸びと過ごしているし、いい街だね。」
「あ、うん、ソウダネー」
時代に取り残されたようなこの町をマツバは気に入ったらしい。そうだよね、マツバってなかみおじいさんだもんね! 俺は中身おっさんだけどこういう不便な感じはどうにも慣れない。現代日本人の貧弱さをなめるなよ……! ――むなしくなったのでやめることにする。
「で、これからどうする?とりあえずワカバタウンまで来たけど」
「そういえば泊まるところないね」
「なんも考えてなかったのかよ!?」
「あーうん。最悪野宿で」
衝撃の事実である。このままいくと人生初野宿である。それは避けたい、が。泊まる所なんてない。
「そうだ、寝なければいいんだ」
オールは得意中の得意だ! まかせろ!
しかしマツバは渋い顔だ。 おじいちゃんだもんね、早寝早起きだもんね、知ってたよ……。
結局いい案は浮かばず、もう何でもいいよね! と開きなおることにした。なるようになれ!
「じゃあこの森の中に入ってみようよ」
マツバが指さしたのはワカバタウンの北側にある森。ゲーム上ではもちろん進めないエリアである。
明らかに人の手が加わっておらず、日差しが木々に遮られ、なんだか鬱々とした印象だ。なんだか嫌な雰囲気の場所だ。本当はすっごく入りたくないのだが、こういうところにこそマツバの求めるゴーストポケモンが好んで生息しているため、きっとマツバは森に入るだろう。なんだかんだこいつは頑固なところがあるからな……。
「でももう夕方じゃん、危ないし明日出直そうぜ」
「でもゴーストタイプのポケモンは夜に活発に活動するんでしょ?」
ちくしょう、誰だ……マツバにこんなこと教えたの! 俺だ! ……。
昔の自分を存分に罵ったところで、マツバが納得するとは思えないので、仕方なく、仕方なく! 森に突入することに決めた。苦渋の決断である。
「何かあったら即座に引き返すからな!」
こうして、俺達はワカバタウンの裏の森に入っていったのだった。もうすでに日は落ちており、遠くから微かにホーホーの鳴き声が聞こえていた。
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