愛情表現
狙ったわけではないのだが、ガーディをゲットすることに成功したが、問題があった。俺とジュンサーさんの間で交わされた言葉であるために当のガーディには一切話が通っていないと言うことだ。
この事に気がついたのはジュンサーさんが俺にボールをくれて、仕事に戻ってからだった。
考えてみれば俺は初対面から威嚇されてしかもそこにさいみんじゅつをくらわせたやつであり、ガーディの中では警戒レベルマックスを突き抜けていてもおかしくない。すごくヤバイ。
もんもんと考え込みながらふとガーディを見ると、バッチリと目があった。
き、気まずい。すごく気まずい。
当のガーディは俺から全く視線をそらさない。すげえ気まずいけど、俺から話しかけるべきだよな……?
「……ちょ、調子はどうだ? お前怪我してたんだぜ」
「…………」
あー失敗した! ガーディ相手に何真面目に話しかけてんだ俺……ばかなの? 俺は脳内で頭を抱えた。実際問題俺ポケモンと会話できるようなハイスペックな人間じゃないから! 普通に話しかけたけどあっちも俺の言葉理解してるか怪しいから!
なんか普段ゴースやゲンガーに普通に話しかけてるからそのノリで言っちゃったよ……ゴース達もほんとに理解してるかわかんねーのにな……。
俺が1人脳内で自問自答を繰り返していると、今までうつぶせで身動き一つしなかったガーディが体を起こした。
「あ、おい! 怪我してんだからむやみに動くなよ!」
俺が声を荒げてもガーディは止まらなかった。仕方なくベットに近づいたら威嚇された。なにこれひどい。
そして俺は気がついた。ボールに入れちゃえばいいじゃんってね!
気がついから即実行ということで、先ほどジュンサーさんからもらったボールにガーディを戻す。いや、戻したかったのだがなぜかはじかれてしまう。これは、もしや……ジュンサーさんボール間違えた? ――マジありえねー。ジュンサーさんってなに、ドジっ子属性でもついてるの? 俺はジュンサーさんに絶望しながら再びガーディを見た。怪我で動かない体を無理やりに動かしてベットから降りようとしていた。
「だから、今お前は絶対安静なんだって……」
俺は威嚇されるのも構わずガーディに手を伸ばしベットへと押し戻した。しかしガーディはあきらめずにもぞもぞと動いていた。
このままではらちが明かないので俺は仕方なくガーディに話しかけ始めた。
「何言ってんのかわかんねーとは思うんだけど、お前のトレーナーは今日から俺になったの。もう警察犬だからっつって訓練所で缶詰めになる必要なんてねーから、とりあえず今は寝ろ!」
すると、俺の言葉が通じたのか、今まで動いていたガーディが大人しくなった。もしもガーディが俺の言葉を理解していると仮定して、暴れないってことは俺のこといやじゃないってことだよな? トレーナーって言ったもんな? 何だ今まで悩んでた俺がバカみたいじゃないか……結果オーライだからいいけど!
そして俺は嬉しさのあまりガーディの頭に手を伸ばしぐりぐりとなでた。するとガーディは嫌がるそぶりも見せず、むしろ気持ちよさそうに目を細めた。なにこれかわいい。
心の中で和んでいると、ガーディが俺の手に鼻を近づけ匂いを嗅ぎだした。ほうっておくとなめられた。これは完全に懐かれたんじゃね? 最初は威嚇されたりしたけど、やっぱり俺が助けたってことわかってんのかな、さすが「いだだだだだだだだだ! ばかやめろ!」
あ、ありのままにいま起こったことを話すぜ…!ガーディに懐かれたと思ったらおもいきり噛みつかれた。何が起こったかわからねーと思うが俺も何が起こったのかわからなかった…頭がおかしくなりそうだった…。妄想だとか甘がみだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしい物の片鱗を見たぜ……。
俺の今の気持ちを一言で表すなら「どうしてこうなった」だ。今明らかに懐かれていい感じだったよね? なんとなくだけどハートマーク出てる感じだったよね今。何で歯形がつくほど本気で噛み疲れてんの?
恨みをこめてガーディをみると、キラキラとした眼でこちらを見つめていた。なんだか可愛くて叱るに叱れなかった。俺は犬派だ!(キリッ)……いや、叱ったほうがいいのはわかってるんだ……でもあのうるうるとした眼で見つめられたら黙って自分の手を差し出してしまうにきまってるじゃないか!! こうなってしまえば自分の右手がガーディのよだれでべとべとだとかそんなことはどうでもいいのだ。
こうしてガーディを叱れない自分と、じんじんと広がる手の痛みと闘っていると背後のドアが開く音が聞こえた。
「……なにしてるの」
後ろをみると怪訝そうな顔をしたマツバと目があった。明らかに何か勘違いしてるよな。別に俺だって好きで手を差し出してるわけじゃないんだ。今己との戦いをしていてだな、ほんとだよ!
その後根気強く説得を続けると渋々納得してくれた……多分。
ガーディをゲットしたけどマツバからの信頼的な何かを失った気がする。得をしたか損をしたかは一概には言えない。
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