予想外、想定外
ゴースに努力値を振るとき、基本的には特攻と素早さに振るだろう。俺もその例に漏れず特攻と素早さに努力値を振ることにし、特攻はいつもの山のゴースを狩ることに決めた。
歩いていると普通にゴースが大量に浮いているので、獲物に困ることはなかった。
野生のゴースに攻撃しようとして、まだ技の確認をしていないことを思い出した。
モンスターボールに目を向け、ステータスを見る。レベルは15なのでナイトヘッドぐらいしか攻撃技がないだろうと予想していたが、実際は俺の予想を遥かに越えていた。
「なっ、なん……だと……」
まず1つ目、技が最大4つではなかったこと。これはまだ予想の範囲内だ。ゲームでないのだから技を制限できないだろうし。
2つ目、シャドーボールを始め、このレベルでは覚えていないだろう技を覚えていたこと。しかも大爆発なんて卵技だぞ! もしかしてもとは人のポケモンで逃がされてしまったのだろうか? もしそうだとしたら技のレパートリーのよさも納得できる。
少ししんみりとした気分になっていると、近くで不自然な光が見えた。不思議に思い近づくと、野生のゴースたち同士で戦っていた。
そこまではまだ良い。問題なのはそのゴースたちもシャドーボールを繰り出していたのだ。
これだけ大量にいるのだからトレーナーが逃がしたというのは考えにくい。もしかしたらここでは育て屋じゃなくも卵ができるのかもしれない。逆にそう考えないとポケモンはすでに全滅の危機だ。
とにかく、あんなにゴースが大量にいたら何匹倒したのか解らないし、一斉に攻撃されたらすぐにお陀仏だ。ということで、すばやくその場から離れた。
その後、ちょうど良いところに居たゴースたちを狩りに狩りまくった。
ゲームと違い、愉快な効果音を流しながらフェードアウトするのでなく、アニメ遵守なのか、目を回して倒れるので、俺たちの回りにはゴースたちの屍が……死んでないけど。
それにしても……必要なこととはいえ、野生のポケモンを狩り続けるのは、俺の少ない良心が痛むぜ……。
その後無事に規定の数を狩り終えた頃には、ゴースのレベルは20にまで上昇していた。
その頃にはもう日も傾いており、お腹も空いていたので家に帰ることにした。
家に入ろうとドアノブに手をかけたときに、そういえばゴースを家につれてきたのは初めてだったことに気がついた。何だか長い間一緒のような気がしていたが、捕まえたのは昨日のことで、何だか不思議な感じだ。
意を決してドアを開くと、そこはもぬけの殻でした。
は? ちょっと待て落ち着けビークールビークール……は? こりゃないぜ……。
リビングにはテレビも、机も、絨毯すらなく。キッチンには、調理道具も冷蔵庫もない。絶望の味を噛み締めながら母の部屋を覗くが、もちろん何もない。最後に自分の部屋に戻ると、何もない部屋の真ん中にポツンとリュックがおいてあった。
リュックの上には封筒があり、母の字で「カズヤへ」と書いてあった。
中はに手紙ともうひとつ封筒が入っていた。
ざっと手紙を読むと、母は父を追いかけるらしい。滅多に帰ってこない父を、ぶっ飛んだ人だなあと思っていたけど、そんな父と結婚した母もぶっとんでいたってことだろう。
しばらく帰るつもりはないらしく、この家は電気も水道もガスも止めるようだ。ホコリがたまるので、家財道具はすべて道具預かりサービスまたは破棄。ずいぶんと思いきったことをするなと思った。
手紙の最後には、旅の心得と、俺を心配する言葉が書いてあった。直接言って欲しかったとも思ったが、手紙として俺の手元においておくのも悪くないとも思った。
もうひとつの封筒の中には記入済みのトレーナーカードの申請書が入っていた。
手紙を読み終えた俺は、ずっと気になっていたリュックを調べることにした。
中には新しい服と、新しい靴、新品のポケギアその他もろもろ……いわゆる旅支度がしてあった。
俺は今まで来ていた服を脱ぎ、新しい服に着替えた。一緒に入っていた赤いサンバイザーは、家の中なので首に掛けた。ついでに靴も履き替える。よく見るとランニングシューズだった。最後に、ベルトにゴースが入ったモンスターボールをセットする。
ポケギアには既に両親の電話番号が登録されており、父親から「カズヤのこれからの旅に幸あれ!」と、メールが届いていた。何となくこれからうまくいくような気になり、頬が緩む。そのメールを保護し、ポケギアを首に掛けた。
他には何もなさそうなので外に出ると、赤いサンバイザーをかぶり、後ろを振り返る。そして12年間過ごした我が家をあとにする。
これからポケモンセンターにトレーナーカードの申請に行かなくてはならない。ついでに部屋もとらないと、今日から家には帰らないんだからな。
――あぁ、たのしみだなあ!
俺はこれからの旅に、年甲斐もなくはしゃぎたい気持ちを押さえ、ポケモンセンターまでの道のりを新品のランニングシューズで全力疾走した。
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あと一話で幼少期編はおわりです。
ここまで一気に書き上げましたが、途中で諦めることなくここまでこれたのはこれを読んでくれる皆さんや、拍手のコメントに支えられたからだと思ってます。
ありがとうございます!
転生者がゆくあらためセカンドライフはまだまだ終わりませんので、これからもお付き合いいただければ幸いです。
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