PUNCH!
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千里眼(マツバ視点)


 修行も佳境に入り、いよいよ大詰め。カズヤとの約束通り3月に終わらせるために、僕は休む暇もないくらいに修行に明け暮れた。もちろん、時間を増やしたからといって、なにも得られなければ意味がないのだけれど、もう少しでなにかがつかめる、そんな確信があった。



 今日の修行を終え、まさに満身創痍で自宅に戻る頃には、辺りはまっ暗闇だった。空は曇っていて、月が隠されているので余計に闇が目についた。
 風呂に入り、自室へと戻る廊下を歩いていると、どこからかひんやりとした空気が流れ込んで鳥肌が立った。
 なにか得体の知れない不気味さを感じていると、僕の部屋の前に誰か居ることに気がついた。
 あちらも僕に気がつき、傍にいたゲンガーが僕に飛びかかってきた。いつものことなので軽くあしらうと、目の前の人物の両目が鈍く光っていることに気がついた。それはまるでゲンガーのような真っ赤な目だった。


 真っ赤な目から目が離せずにいると、今まで隠れていた月が顔を出した。
 月明かりに照らされて姿を表したそれは、僕の親友……に見えた。




「カズヤ……なの?」

 僕は意思とは関係なく震える声で話しかける。

 彼は肯定も否定もしなかった、けれど返ってきた言葉はもちろん彼のもので、しかし先程のような強烈な違和感は薄らいでいた。ただ鈍く光るその両目だけが彼がカズヤであってカズヤではないことを主張しているようだった。



 彼は僕に自分のことを語った。最初のポケモンをゲットしたこと。今まで見えなかったものが見えるようになったこと。そのときステータスとかレベルとかよくわからないことを熱心に語っていたが、よくわからなかったので頷いて先を促すにとどめた。
 カズヤは時々こうして僕にはわからないことを口走ることがある。でも僕はトレーナーズスクールに通っていたわけでもないから話の半分も理解できない。それが悔しくないと言えば嘘だけど、他の人には言っていない知識を惜しげもなくペラペラと語ってくれていると言う優越感があるので、話を聞くこと自体は嫌いじゃない。


 そんなことをぼんやりと考えていると、不思議そうに彼が僕を覗き込んでいた。ちゃんと聞いているのか心配しているみたいだ。いつもカズヤに言うように続きを促すと、安心したようにまた話し出す。そんなところまで彼はカズヤにそっくりだった。でもやっぱり両目は赤く光ったままだった。



 ――……サザッ

 何かのノイズ音が聞こえたかと思うと僕の意識は別の場所にさらわれた。今になってはもう驚くこともなくなった。無意識的にこれが発動したときは、相手の心の中や過去の記憶、たくさんのことが「みえる」。
 あぁ、本物のカズヤはどこにいるんだろう。これから見えるものは、それと関係があるのだろうか。



 ――まず見えたのは森の中、ふらふらと歩くカズヤとふよふよと浮かびながらついていくゲンガー。
 次に見えたのは、木の根元に座り込んだカズヤと周りをただよう紫のなにか。
 最後に見えたのは手の中にあるモンスターボールをじっと見つめるカズヤだった。



 走馬灯のような一瞬のできごと、それは僕が見たかったものだった。

 隣では彼がまだ喋り続けていた。僕の意識が沈んでいたのはほんの10秒ほどなのだから当たり前なのだけど。


「つまり、俺は俺からポケモントレーナーという人種に進化したんだ。だからステータスが見えるし、疲れないし眠くならない。いや、ポケモントレーナーというよりは俺が俺を操作しているような……」

 彼が話すのを聞きながら僕は然り気無い動作で庭で遊んでいたゲンガーを呼び出した。

「ゲンガー。カズヤにゆめくい」


 僕の指示を聞いたゲンガーは一瞬戸惑ったように僕とカズヤを見比べた。そもそもゆめくいとは眠り状態でないときかないわざだ。ゲンガーもそこに思い至ったのか、ゆめくいを繰り出した。

 カズヤは僕の予想通りに苦しみ出した。
 ゲンガーが夢を食い終わるとカズヤは何が起こったのかわからないというようにいつもの赤茶色の目をぱちくりさせていた。


「おはようカズヤ。いやもうこんばんはだけどね」


 つまり、カズヤは催眠術にかかっていたのだ。普通ゲットしたてのポケモンがトレーナーに反抗することはない、それに原因のポケモンはまだボールに入ったまま逃げようとしない。なにか理由がありそうだとカズヤに伝えると、カズヤは腰のボールを手に取り、ためらいもなくボールを開いた。

 ボールを開くとゴースが出てきた。
 今回の事件の原因でもあるし、カズヤに攻撃したことも正直腹がたつ。そんな気持ちを込めてゴースをにらむと、ビクリと震えてカズヤの後ろに隠れてしまった。

 こんな目に合わされたのになんでカズヤは拒絶しないんだろう、心が広いのか、とるに足らないことなのか、たぶん後者だ。
 カズヤは自分のことを省みない節がある。なぜかはわからないけど、自分が大切でないというか、どうなってもいいと思っているんじゃないかと僕は思っている。そしてそれを改めてほしいとも。



 そういえばもうすでに0時を回っている。今から帰宅するのも忍びないだろうから今日は僕のうちに泊まってもらおう。
 家が近かったのでお互いにお泊まりははじめてだ。
 楽しみではあるけれど、まずはそのゴースをこれからどうするのか話し合う必要があるな。






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思いの外長くなったマツバ回

私は千里眼と修験者について自分に都合のいいように捏造しているので、信じないでくださいね


今回の最初の方が少しホラーっぽいと読み返して思った
まあある意味ホラー回だけど


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