PUNCH!
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 俺のクラスに変わった2人組がいる。


 そいつらを知ったのは2年の終わりの頃。噂話と言うものにたいした興味もなく、当時たまたま隣の席のあやちゃんに2人のことを聞かされたときに首を傾げたらひどく驚かれたのを覚えている。



 月日が経ち3年に進級する頃には2人に対する興味も薄らぎ、クラス替えで偶然あの2人と同じクラスになったときも噂のやつらだなくらいにしか思っていなかった。


 しかしいざ同じクラスにって見ると茶髪の従者っぷりはすさまじく、お前は彼女かと思うくらいに甲斐甲斐しかった。それに3年に入ってからもうすぐ1ヶ月に入ろうかと言う時期だが、俺はいまだに黒髪の声を聞いたことがない。俺は他人にあまり興味がないが、最近の趣味はもっぱらその2人の観察だった。
 2人に興味があったものの関わる気は更々なく、遠くから観察することが楽しかった。


 そんなことを考えていた俺に事件が起きたのは春も終わりに近づき、なんだか蒸し暑かったある日の四時限目の体育だった。

 高校に入ってから体育は男女別になり、男子の種目はサッカーだった。
 眼鏡をかけて地味に生活しているせいか、運動ができないように思われるが、人並みにはできるつもりだし球技はわりと得意だった。
 いつも通りに適当にパス練をして適当にチームを組み、適当に試合する。四時限目と言うのもあり生徒のやる気はいまいちだ。

 何試合目かは忘れたが、例の2人がいるチームと対戦した。俺と同じく見た目を裏切り運動ができる黒髪と、見た目の通りに運動ができる茶髪。試合はそこそこに盛り上がり、残り時間もあとわずか。点数は2対2で同点。最後に一発決めようと走り出したとき、目の前には黒髪。どう考えても今からの回避は難しかった。遠くから誰かの叫び声が聞こえた。黒髪の顔が近づき、その距離は3、2、1、0。







 こういうときのお約束。ハプニングキスイベントなぞがリアルで起きるはずもなく、黒髪の額と俺の額が正面衝突したわけだが、俺はその衝撃で倒れ込んだにも関わらず黒髪はその場に突っ立ったまま俺を見下ろしていた。それを確認した瞬間に俺の意識はブラックアウト。







「……知らない天井だ」

 目覚めの一発で定番のネタをかますぐらいにはユーモアのある俺。周りを見渡せば白いカーテンが嫌でも目に入り、ここが保健室だろうと予想できた。

 それにしても額のいたさが尋常じゃない。もしかして陥没してない? 何て考えていたら俺を囲むカーテンが開いた。

「よお、頭大丈夫か?」
 顔を出したのは見覚えのある茶髪だった。

「陥没したかと思ったけど、大丈夫みたいだ」
 額をさすりながら茶髪に目を向けると、斜め後ろで黒髪がこちらをじっと見ていた。

「こいつはマジで石頭だからなあ……ほら、いつまでそうしてんだ」

 茶髪は黒髪の肩をつかみこちらに押しやる。黒髪は一度キョロリと辺りを見回してからこちらに目を向けた。

「………………」
「………………」

 気まずい、非常に気まずい。そもそもなんでこっちに押しやったんだ……こいつ無口なんじゃないの?

「………………」

 なおも無言。こちらから何か言うべきなのだろうか、そもそもぶつかったのは俺のせいだよな?
 よし、早いとこ謝ろうかと口を開きかけたときに、黒髪がようやく口を開いた。

「…………ごめん」
「……いや、謝るのはこっちだ。ぶつかったのは俺が周り見ずに走り出したからだろ? ごめん」

 俺が謝ると黒髪は目を見開いた。常に無表情な黒髪にしては珍しい、初めて見たぞ。
 そんなことを考えていると黒髪のとなりにいた茶髪も黒髪を見て驚いている。やっぱりこの表情はレアなのか、ここにカメラがないことが心底悔やまれる。売ったらいくらになっただろうか。

「……でも、怪我させた」
「あーほら、怪我は男の勲章だろ。額も陥没してないみたいだし、気にすんなって」
「……陥没」
「マジでコンクリートに頭ぶったかと思うぐらいの衝撃だったぜ」

 俺がケラケラと笑っていると、今まで黙っていた茶髪がビニール袋を差し出してきた。

「楽しくしゃべってるところわりぃけど、早く食べねぇと5時限目はじまっちまうぜ」


 時計を見るとすでに昼休みだった。袋を受けとると中には購買のパンが大量に入っていた。

「そん中から好きなの選べ」
「それじゃあ遠慮なく」

 袋の中から焼きそばパンを取り出し、袋を返す。すると隣から二つの手が伸びてきた。手には緑茶とコーヒー牛乳が握られており、持ち主にじっと見つめられていた。
 どちらか選べと言うことだとかってに解釈し、コーヒー牛乳を受け取った。

「ゲ、コーヒー牛乳かよ」
「んだよ、悪いか」
「いや悪かないけど、普通緑茶だろ」

 そういって残りの緑茶に手を伸ばす。

「グリーンだけに緑茶か」
 何気なくポソリといった言葉に茶髪は嫌そうに顔を歪めた。

「……お前もか……」
「は? どういう意味?」

 首を傾げていると、一人黙々とイチゴ牛乳とパンを貪っていた黒髪が呟いた。

「昔俺も同じこといった」
「あーなるほど。つーか嫌なら何で緑茶のんでんだよ」
「緑茶が好きだからだよ」

「「グリーンだけに?」」

 俺と黒髪の声がハモった。お互いに予想外だったのか、顔を見合わせて笑った。ていうか喋らない奴だと思ってたけど案外普通に話せるもんだな。

「おまえら……」

 茶髪が何か言っていたけど聞こえないふり。隣に習って黙々と食べた。





「そういえばまだジャージだ。着替えないとだし、先行くわ。昼飯ありがとな」

 そういって立ち上がるとなぜか黒髪も立ち上がった。

「……俺も戻る」
「は? ちょっと待てよまだ食い終わってない」

 茶髪の言葉を無視するように俺の腕を掴んで引っ張っていく。え、なに、実は仲良くないとか?
 訳がわからないまま着いていくといつのまにか更衣室だった。とりあえず考えるのは後回しでさっさと着替えることにする。


「………………」
「………………」

 再びの無言。しかしもう2回目ともなればそこまで気にならない。
 すると黒髪がポソリと独り言のように呟いた。

「……名前、何?」
「ん、……ハルト」
「ハルト……ハル」
「好きに呼んでいーよ」
「……うん。……レッド」
「……レッド、よろしくな」

 端から見れば異様な光景だろう。これがいわゆる単語で会話状態なのか。
 まあ結果的に見れば会話は成功し、名前呼びを許すぐらいには親密度が上がったようだ。何かギャルゲみたいだな。

「……ミステリアス系美少女、性格はスーパードライ」
「……何語?」
「いや、こっちの話だ」

 口に出してみるとなかなかしっくり来るな。いわゆる長門とか綾波タイプだ。今までレッドのことを宇宙人かなんかなんじゃないかとこっそり思っていただけに、ピタリとはまったな、長門的な意味で。
 1人で納得している俺を、レッドが変なものを見るような目で見ていたことなんて知らない。


 その後、保健室に放置していた茶髪があらわれ、さっきよりも若干仲良くなった俺たちを見てぎゃあぎゃあ騒いでいたが、これも2人でまるっと無視した。どうやら茶髪はいじられキャラのようだ。保健室でのシカトは別に仲が悪いとかじゃなく、茶髪が悪いな。何かこいつシカトしたくなる。

 教室に戻る頃には茶髪との名前呼びイベントもクリアし、若干親密度が上がったような気がする。それにしてもこいつはよくしゃべる。さっきからレッドもフルシカト状態だ。今まで声を聞いたことがなかったのは実はグリーンのせいなのかもしれないな。……あながち間違ってないような気がする。



 俺のクラスに変わった3人組がいる。

 意図せずうっかり仲良くなってしまったけれど、こいつらとつるむのは嫌いじゃない。


噂の二人組



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