天の邪鬼の背中合わせ
コンコン
細いノック音が部屋に響いた。
ソファーの端に座っていた次元は、視線も動かさずにマグナムのメンテナンスを続ける。
するとカチャリとドアの金具が落ちる音を出し、ゆっくりと女が部屋に入ってきた。
「返事くらいしてくれてもいいんじゃない?」
「入んなって言えば入らねぇのか?」
「それはその時にならないとわからないわ。」
「試す価値もねぇ。」
次元は眉1つ変えずにマグナムを磨いている。
一度電灯にかざし、傷の位置を確かめる。
入り口でその姿を少しの間見ていると、不二子はカツカツとピンヒールの音を立てて次元に近づいた。
そのまま次元の隣に座り、背中を預ける。
互いが顔を見えない状態、つまり背中合わせになり、不二子は片膝を抱えた。
「あなたって本当にお堅い人なのね。そんなにあたしが嫌い?」
次元は足元に置いてあるガンケースにオイルの匂いが染み付いたガーゼを戻し、代わりに細い鉄の針を取り出した。
「女に好きも嫌いもあるか。」
鉄の針をシリンダーに差し込み、乾いたオイルの欠片を削り出し排莢する。
不二子の華奢な体が少し揺れた。
「あたしを他の女と一緒にしないで。」
シリンダーをはめると、鉄の針をなおし、ガンケースの蓋を閉じた。
マグナムを腰に戻すために肩を捻ると、不二子の腕にひじが当たり、仕方なくマグナムは膝の上に置いた。
胸ポケットからタバコを抜いて火を灯す。
紫煙を燻らせると背中が少し動いた。不二子が体を少し回転させている。
「言っておくけど、あたしは軽い女は嫌いなの。」
「あぁそうかい。説得力に欠けすぎて逆に信じそうだよ。」
「試してみる?」
「やってみな。」
すると不二子は次元の肩を引き、タバコをつまんで床に落とした。
そのまま次元に凭れかかり、人差し指でつつ、と次元唇をなぞる。
焦れったくあと数センチの距離のところで不二子は唇を止めて頬を擦る。
か細い指が地肌に触れる度、次元の視線は不二子に食い入った。
「焦れったいのはお嫌い…?」
不二子がそう囁くと、次元は不二子の顎を捉えて口付けを交わした。
「ああ、俺はあまり気の長い方じゃないんだ。」
唇を離すと、次元は不二子の耳許で息を交えて囁いた。
「女は嫌いなんじゃなかったの?」
「興味が無いんだよ。だが今まで付き合った女だっていないわけじゃねぇ。」
「ふーん、無口でぶっきらぼうで、良いところは銃の腕前しかない男と思ってたけど、案外優しいキスをするのね。」
「二言くらい余計だ。」
「やっぱりあたしに惚れた?」
クスクスと不二子はいたずらっ子のように笑うと、次元は空いた手で不二子を引き寄せる。
「……かもな。」
次元は貸すかに口角を上げると、目深に被った帽子の下から不二子を見下ろす。
少し目を丸くしていた不二子はまた先ほどのように目を細め、小さく舌を出した。
「ならもうあたし以外の女には惚れないでね?」
「そう思うんならいい子にしてな。」
他の男に寄られねぇように、な。
次元はその舌を絡めとるようにして二度目のキスを落とした。
まるで無垢な天使のような悪魔のお前さんに、先に惚れていたのは俺だったんだよな。
-fin-
◯相互リンク記念小説です!
陽炎様という方が
それはそれは素敵な小説を
upしていらっしゃって
なんと私と相互リンクをして下さり、
感激のあまり書いてしまった
「仲間になる前の次×不」です*
陽炎様、如何でしょうか…?(汗)
お気に召して頂ければ……
感涙です(´;ω;`)
この小説は陽炎様のみ
お持ち帰り可です*
Thank you for reading!!
*prev|next#