財宝

「ふー…やっと一段落ついた。」

ギシっと椅子の背もたれに体重を乗せるとルパンは手を組んで上に伸ばし、首の関節を二、三度鳴らした。

「ルパン、どうだ調子は。」

後ろからやってきた次元はコーヒーを手渡しながらルパンの前の椅子に座る。
コーヒーを受け取るとルパンは一口それを飲んで二カッと笑った。

「絶好調よん。まぁ今夜にはできそうだぜ。」

今回の作戦を練っていたのかルパンの前に置いてある建物の設計図には、ルパンが見つけたであろう裏道が赤いボールペンで書かれていた。

「ん?五右ェ門はどうした。」

「五右ェ門はあそこ行ったよ。」

「あそこ?」

「風魔の奴らと戦ったあの山。」


「……。」

冷たくは無い風が指すように山の頂に立つ男を追い越す。何の音も無いここにあるものは過去の記憶のみ。
五右ェ門はただまっすぐ遠くを見つめながらゆっくりと口を開いた。

「己の判断が正しかったかどうかなど分かり得ぬ。」

あの時紫殿が動かなければ拙者はどうしていたか。
愛する人のためにこの身を投げていたか。

無意識に動く右足からじゃり、と雪駄の下に埋まる小石の擦れる音がやけに耳障りだった。風は止まず、空も厚い雲が覆い、心境にはぴったりだったが五右ェ門の表情はただただ険しくなるだけだった。

「未熟者だと…幾度言われれば気付くのだ。」

この場に立つだけで思い起こされる一瞬の恐怖。

『五右ェ門様!』

今でも鮮明に思い出せるあの叫び声。
目は向けていなくとも分かった。
貴女は拙者が動くまでずっと拙者を見ていた。

『ごめんなさい!』

何故謝ったのだ、全ての非は拙者にあるというのに。

貴女を傷つけたくないという浅はかな理由で婚約を拒み、また一人にしてしまった。
本当は貴女を傷つけるかもしれないという恐怖に襲われるのを怯えているだけだというのに。

風が止む。

音が止む。

空から注ぐのは見えぬ希望。

「武士道とは…死ぬことと見つけたり。」

心の何処かでそれを拒む邪念。
それはきっとあの時から少しずつ己の心を蝕んでいた。

貴女と出会った、あの時から。

「この財宝など、微塵もいらぬ。」

ただ拙者は、

「愛のためや、守るためなど、浅ましい。」

邪念でも、貴女の存在が愛しい。

「だが、そう思っている己がいるのを否定はできん。」

滑稽だと嘲笑しても、変えられない思い。

財宝が望みだと言って死んでいったあの者たちと、もしかすると避けられぬ共通すべき点があるのかもしれぬ。

しかし、そうだとしても、

「いつか、必ず。」

約束する必要など、無くなるように。

その事が、当然になるように。


風が吹く。
止むことなど知らぬように。


-fin-

○ひっさしぶりに書きました!
なんかもうむっちゃくちゃで申し訳ない…
でも五右ェ門の中での紫ちゃんはただ純粋に
想っているだけではないのかな、とか
思っているとニヤニヤしてしまって
書いてしまいました(^^*)
財宝あんまり関係ないね…


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