天を睨めば
※次×不のパロディです!苦手な方はご注意ください!※
雪が止まない。
行く行く人はもう時期やってくるクリスマスのことで頭がいっぱいのようで、華やかな装飾やケーキなどを持って歩いている。
次元はそんな人々の肩にぶつかりながら雪の中をさ迷うように、覚束ない足取りで前へ進んでいた。
すると前から小さな少女が走ってきた。
「お兄さんっ、お花買いませんか?」
花など、この季節に買っても枯らすだけだ。
次元は断ろうとしたが、ふと少女の手を見る。
その紅葉のような手は霜焼けで赤く腫れ、所々が皹のように裂け目を見せていた。
「…いくらだ?」
「一本50セントです!」
次元はポケットからコインを出すと、それを紅葉に握らせた。
「んじゃ、貰っとくぜ。」
「あっ…お兄さんっ。お釣り…!」
少女が慌てて次元を呼び止めると、次元は微笑んで少女の頭を撫でた。
「おじさんからのクリスマスプレゼントだ。これからも頑張りな、花売り嬢ちゃん。」
少女は先ほどよりも顔を赤らめ、可愛らしく微笑んだ。
「何やってんだか…。」
次元は小さな花をくるくると指先で回し、白いため息をつく。
空からはまだ絶えず雪が降ってくる。
次元は胸ポケットに花を差すと、何やら後ろからガヤガヤと声が聞こえた。
振り返ると、そこにはばかでかい車が何台もあり、それらは全て金持ちが集まる屋敷の前に止まった。
「何だ……?」
次元は目を細め、車から出てくる人間を見た。
まず初めにいかにも金の亡者のような男が出てきて、続いて女性が出てきた。
その女性は体つきは華奢で、栗色の髪は長く、肌は雪のように白かった。
次元は息をするのも忘れ、その女性を見ていた。
すると斜め後ろから年配の女性同士が声を潜めて話しているのに気付いた。
「可哀想に…あの子も買われたのね。」
「どうしてああやってまだ若い子たちを売るのかしら。」
「分かりきったことでしょう?」
次元は振り向いて歩き始めた。
「そんなの、お金のために決まっているじゃない。」
屋敷の前に止まった車は、ライトで偉そうに周りを明るく照らしていた。
「それじゃあ不二子ちゃん、また後で…ね。」
「はい…。」
パタンとドアが閉まった。
不二子はため息をつく気力も失せ果て、乾いた涙を流しながら窓から雪を眺めた。
「雪の中にずっといれば、きっと解放されるのかしら…。」
冷たい窓に手をあて、俯く。
すると、何やら廊下が騒がしくなっていた。
銃声と悲鳴が聞こえ、まるで戦争のラジオでも聞いているかのようだ。
不二子は不思議に思いつつも、そこから動かなかった。
「死ねるなら…もう本望よ。」
すると銃声と悲鳴が止まった。
不二子が黙ってドアの方を見ていると、そのドアはギィと音を立ててゆっくり開く。
そこには1人の黒い男が立っていた。
「どちら…?」
男は帽子を押さえながら不二子に歩み寄る。
「悪い人だよ。」
「悪い人…?」
「あぁ。」
不二子の前に立つと、次元は帽子の下から不二子を見た。
月に照らされた肌はより一層美しさを増し、下がった睫毛は長さを強調させる。
「自分の欲望の為に他人を殺した。」
「他人って……。」
不二子の頬に触れる。
「あんたを買った男たちのこった。」
「……。」
「ここには今、あんたと俺の2人きりだ。」
言葉を失った不二子に次元は構わず話し続けた。
「俺はあんたが欲しい。他に金も何もいらねぇ。あんたはどうしたい?ここに残るか、俺についてくるか。」
不二子は黙りこんだ。
しんしんと降り積もる雪だけが何か言いたげにちらついていた。
「…ごめんなさい。あなたについていくことはできない。」
「じゃあこれから…、」
「でも、お願いがあるの。」
不二子は大きな目を次元に向け、一筋の涙を見せた。
「私を…殺して。」
不二子の瞳に迷いはなかった。
ただ催促するように、まっすぐ次元を見ていた。
「ここにいてもまた誰かに拾われて売られて遊ばれての繰り返し。もう私に行く宛てはないの。」
時が止まったようだった。
次元は何も言わず銃口を不二子に向ける。
不二子が生気の失った顔で微笑むと、引き金が引かれた。
ガァンと銃声が部屋中に轟いた。
「…悪いな。」
次元は不二子を抱き締める。
一発の銃弾が埋まった壁はパラパラと音を立てて砂を落とす。
「俺があんな親父みたいな金持ちだったら、あんたを助けられたのにな。」
次元は不二子を離すと、手で不二子の両頬を優しく包んだ。
「あんた、名前は?」
「不二子…。」
「じゃあ不二子。」
次元は不二子に唇を寄せる。
その時不二子が、きゅっと目を瞑るのに気付き、触れるだけのキスをした。
不二子が驚いていると、次元は寂しそうに微笑んで胸ポケットから花を取り出した。
「悪い人からのクリスマスプレゼントとしてもらってくれ。」
「えっ…でも…!!」
「枯らしてくれて構わない。ただ…。」
振り返ると、次元はドア付近でもう一度だけ不二子を見た。
「今だけは『それらしい』気分にさせてくれ。」
次元は黙って屋敷を出ていった。
白い息を吐いて、空を見上げる。
「よう神様。」
雪が降る。
「お前さんが俺は大嫌いだ。」
雪が顔に当たる。
「何が平等なんだ。信じていても、あんたは何もしてくれないじゃないか。」
雪が積もる。
心から憎い天を睨んでも
他人からは空を崇めている
ようにしか見えていない。
次元は苦笑して、もと来た道を辿っていった。
-fin-
◯シリアスな次×不のパロです。
元ネタはポルノグ◯フィティさんのある歌です(^^)
聞いた時にすごく切ない気持ちになり、
勝手ながら書きたくなりました。
ちなみに『それらしい』っていうのは
『恋人らしい』でも『クリスマスっぽく』でも
自由にご想像下さい*
Thank you for reading!!
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