泥棒と子猫
言葉には表しにくい雨音が、しきりに鼓膜を叩いている。
雨傘から空を覗く肩は既に濡れていた。
「雨止まねぇなぁ…。」
傘を少しずらして曇天を見上げると、それを拒むように一粒一粒の雨がルパンの顔に降り注いだ。
「ま、こんだけ暗けりゃ作戦も実行しやすいってな。」
ルパンは鼻歌を口ずさみながらパシャパシャと水溜まりを踏みしめる。
するとルパンの視界の端に、何やら小さな陰が映った。
ルパンは足を進めてその陰に近寄る。
陰はどうやら段ボール箱のようだった。
ルパンはしゃがんで傘を傾け、段ボールをゆっくり開ける。
その中には生まれて間もない子猫が一匹、ちょこんと可愛らしく座っていた。
「こんばんは、可愛子ちゃん。」
ルパンが微笑んで子猫の頭を撫でると、子猫は小さく「にゃあ」と鳴いた。
ルパンを気に入ってしまったのか、子猫はルパンの手をクンクンと嗅ぐと、細く小さな舌を出してルパンの指先を舐めた。
ルパンは傘を首と肩で挟み、子猫を両手で持ち上げる。
「君も1人か…、俺と一緒。」
壊れ物のように優しく抱くと、ルパンは足を進めた。
「1人は寂しいか?」
「にゃあ。」
「でもな、人はいつか1人になる日が来るんだ。…あ、君は猫だな。まぁ一緒か。」
「な。」
「生き物なんて儚いもんさ。1人になった途端、孤独の恐怖を知ってこの世の凡てを知ったつもりになる。」
子猫は小さな手で顔を洗う。
「無い物ねだりだからよ、1人の時は数多の仲間を求めるし、大勢でいるときは1人でいることを欲する。」
「にゃ。」
「矛盾で成り立ってる世界を今更変えることは無理さ。でもな、自分が芯から欲しがってるもんが分かれば、同じ過ちは犯さずに済むんだ。」
ルパンは優しく子猫の後頭部に触れる。
「もう俺は…、一度手に入れたものは手放したくないのさ。」
ルパンは足を止める。
アジトを目の前に、その場にしゃがみこむ。
そして子猫をゆっくり乾いているコンクリートの地面に置いた。
「君もいつか、失い難いものができたらまた会おうぜ。」
ルパンはポケットから小さな紫の鈴と革のブレスレットを取り出した。
「鈴は拾ったもんだが、ブレスレットは今日盗んだもんだよ。今宵を記念に君にあげる。」
鈴をブレスレットに付け、ブレスレットを最大の大きさにして猫の首に巻く。
まだ子猫なので、ブレスレットはがばがばの首輪になったが、子猫は嬉しそうに「にゃあ」と鳴いた。
「んじゃ、またな。」
ルパンがアジトに戻り、窓から先ほどの場所を覗くと、そこにはもう何もいなかった。
「…っい、おいルパン!いい加減起きろ!」
次元はすやすやと寝息を立てていたルパンの布団をひっぺがし、ルパンをベッドから落とした。
床で頭をぶつけ、もぞもぞとルパンが起き上がると、そこはいつものリビング。
「はよー…次元ちゃん。」
「何がおはようだ。今何時と思っていやがる。」
「………10時?」
「14時だ。よくここまで寝れるもんだな。」
ため息をつくと次元は剥ぎ取った布団を持ってベランダへ向かった。
そこには他の3人の布団を干している不二子が立っていた。
「あらルパン、やっと起きたの?」
「不二子ちゃーん!!」
いつものダイブで不二子に飛び付こうとすると、ベランダの窓を閉められ、顔面をガラスに受け止められた。
そのままずるずると落ちると、頭上にパサッと新聞が置かれる。
それを広げながら立ち上がり、ルパンはダイニングテーブルに腰掛けた。
「朝から踏んだり蹴ったりだぜ…。」
「自業自得でござる。」
ルパンが新聞に目を通していると、五右ェ門がコーヒーを注いでルパンの前に置いた。
「あらありがと、五右ェ門。」
「構わぬ。ところでルパン、新しい作戦は思い付いたのか?」
五右ェ門が緑茶を啜りながら言った途端、ルパンは飛び上がり、テーブルの上に胡座をかいた。
「そうそれ!聞いてくれよー♪今回はさ…。」
ルパンが作戦を話し始めると、次元は五右ェ門の隣に腰掛ける。
不二子も行こうとすると、何かが不二子の足首に当たった。
うつ向くと、そこにはまだ生まれて間もないような子猫がいた。
「あら可愛い。」
不二子がしゃがんで子猫を撫でていると、ルパンがそれに気付いて作戦会議を中断させて寄ってきた。
「どったの不二子。」
「見て、可愛いでしょう?」
不二子が子猫を抱き上げると、ルパンは目を丸くして頷いた。
「可愛いけど…不二子ちゃんの方がもっと可愛いーっ♪」
「きゃあ!もうっ馬鹿!」
ルパンが不二子に飛び付くと、子猫は驚いて不二子から離れてしまった。
「あっ…、もう!行っちゃったじゃないの!」
「ごめんごめんー♪」
ルパンはへらへらと誤魔化しながら、猫の行った方向に目を向ける。
そこには先ほどの子猫とその親猫がいた。
「君も見つけたんだな。」
ルパンは優しく微笑むと、 不二子の頬に軽くキスをして立ち上がった。
「ほんで、さっきの話の続きだけどなー…。」
子猫は親猫に寄り添った。
紫の鈴をつけた親猫は「にゃあ」とだけ鳴いて、子猫と共に裏路地へ姿を消した。
-fin-
◯ルパンがみんなに
会う前の話と会った後のお話です(^^)
ルパンは昔、大切なものを何か
失っていて、その悲しみを
知ってるからファミリーを
大切にしている…って
いうのだったらいいのにな*
何が言いたいんだか…(汗)
Thank you for reading!!
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