乙女の気持ち
シャンシャンと何処かで鈴の音が鳴る夜。
次元と不二子はクリスマスパーティーに使う品を買ってきてほしいとルパンに頼まれ、アジトから少し離れた街まで買い物に来ていた。
雪は降っていなかったが、寒さは厳しく行く行く人々は本能で身を縮めて、又はカップルらしき2人は身を寄せあって体温を維持しようとしていた。
そんな中、次元と不二子は付かず離れずの距離でゆっくりアジトに向かっていた。
「さすがクリスマスね。どこを見ても2人組ばっかりだわ。」
目だけで軽く周りを確かめ、不二子はその動きで少し乱れたマフラーを直した。
「まったくだな。ま、こんな日があってもいいじゃねぇか。」
俺と並んで歩くのは不満か?と不二子の肩に手をかけ次元は不二子を覗き込んだ。
「そうね。あなたがもう少し近くにいてくれたら不満じゃなくなるわ。」
そう言われると、次元は微笑んで不二子の肩を引き寄せた。
すると何やら2人の視線の先に人だかりができていた。
不思議に思って不二子は、次元の手を引いてその集まりに駆け寄っていった。
「はぁーい!お次はこの男性が素晴らしいパフォーマンスを見せますよー!」
人をかき分け、その中心を覗くとそこには5、6人の男たちが集まる客に笑顔を振り撒きながら何やらマイクを通して話していた。
「大道芸人か。不二子、見たいのか?」
「せっかくだし、少しだけ見ていかない?きっとすごいわよ。」
「仕方ねーな。」
次元はため息をついてその場にいることにした。
その時、次元はふとどこからか視線を感じ、振り向いたが人が多すぎて視線の主が誰かわからなかった。
小柄な体型の大道芸人の少年が、些か派手なダンスとアクロバティックなパフォーマンスを披露すると、周りの客は大きな拍手を少年に与えた。
不二子も小さくだが手を叩いている。
あれくらいならルパンの方がすごいだろ…
次元は途中からつまらなくなったのか少し妬いているのか、胸ポケットからおもむろにタバコを取り出した。
すると、大道芸人のリーダーのような男が集まっている客を見渡した。
「じゃあ次は誰かに手伝ってもらいましょう!それじゃえーと…あっ、そこのタバコ吹かせているお兄さん!」
大道芸人が指差した先には、ハットを被った黒い男が。
「ちょ…次元じゃないの?」
不二子が疑いの目で次元を見ると、次元は一度紫煙を燻らせ、大道芸人を見た。
「……あ?俺か?」
「そう!あなたです!どうぞこちらへっ。」
大道芸人は次元の手を引き、集まる客の視線が集中する場に立たされた。
「失礼ですがお名前は?」
「次元だ。」
「いいお名前ですねー。では次元さん!あちらをご覧下さい!」
大道芸人が大きく腕を上げて体を反転させると、そこには大きな木の枠に宙吊りにされた女性がいた。
その女性の後ろには枠程の大きな集めの板が備え付けられている。
「今から次元さんにナイフを5本投げてもらいます!果たしてこの女性は避けきれることが出来るのか!?」
客たちがどよめく。
「お、おいあんた…。」
「大丈夫です。あの女性はどんな刃物でも避けますから…。」
大道芸人は次元に小さく耳打ちする。
「ふーん…。刃物ねぇ。」
大道芸人が笑顔で頷いて次元にナイフを渡し、2、3歩下がった。
「では見せて頂きましょう!It's show time!!」
次元は気の進まない顔でナイフを持ち変える。
宙吊りにされている女は笑顔で次元にアイコンタクトをした。
『お手柔らかに♪』
『勿論』
次元もそれを返すと、ナイフを構える。
息を飲む客たち。
くっと腕の向きを変えた瞬間、次元は後ろに振り返ってマグナムを抜いた。
ガァン…ッ
同時に次元の後ろに立っていた男が倒れる。その男の手にはオートマチックピストルが握られていた。
「きゃあー!!」
突然の出来事に客たちは驚きと恐怖を隠せなかった。
大道芸人たちも何が起こっているのか分からず、互いに芸の一連の流れを確かめていた。
するとどこからかわらわらとピストルを持った男たちが次元の周りに集まってきた。
「なんだなんだ、今夜は偉くモテるな。」
笑いながら次元はその男たちを見渡す。
見たことの無い面ばかりだ。
「そうかもしれねぇなぁ。次元大介、そのお祝いにちょっと遊んでくれや。」
「悪いが俺はお前らみたいな奴らと遊ぶのは嫌いなんだ。鬼ごっこで1人を集団で狙うような奴らとはな。」
次元を囲んだ男たちは銃を構える。
それを見ていた不二子はブローイングを抜こうとしたが、次元がそれに気付くと、それを止めさせるように目で促した。
『次元…っ』
『いいからそこにいな』
次元は笑ったまま男たちに向かう。
「じゃ、お前らの鬼を捕まえてみろよ。」
挑発されたのが分かったのか、次元に銃口を向けていた男は血色を変えて引き金に指をかける。
「そうさせて頂くよ!!」
ガンガンガン…ッ
重い銃声が鳴り響き、客以外の人々も不審に思った。
次元の周りにいた男たちは血も流さずに地に伏していた。
「心配すんな。あいつ特製の瞬間麻酔銃だよ。」
次元は銃を収めると、宙吊りにされている女性に歩み寄る。
そしてポケットにしまっておいたナイフでロープを切った。
周りの客たちはまだ黙ったままだった。
「お嬢さん、」
次元が優しく声をかける。
「怖い思いをさせてしまい、申し訳なかった。君に鉛玉のアクセサリーは似合わないからな、手出しさせてもらったよ。」
どこぞやの紳士のようにその女性の手の甲にキスを落とすと、優しく微笑んだ。
女性は言葉を失い、次元に見とれていた。
「まだ…だ…。次元大介っ!!」
地に伏していたはずの男がポケットピストル銃口を次元に向けた。
一瞬空気が止まる。
次元は抜いたマグナムをゆっくり戻す。
「ポケットピストルじゃなけりゃ、怪我人が増えてたな。」
大道芸人たちははっと我に戻り、急いで次元に駆け寄った。
「いやー!素晴らしいパフォーマンスでした!皆さん、次元さんに盛大な拍手をー!!」
その掛け声と同時に拍手喝采が沸き起こった。
「次元さん、本当にすみませんでした…。お客様であるあなたにこんなお怪我を…。」
ショーが終わった後、最後の銃弾が頬をかすった次元は先ほどの大道芸人に手当てをしてもらっていた。
「仕方ねぇさ。お前さんこそ、あんな状況を目の当たりにしたのに、俺を誰か聞かないでくれてありがとな。」
「あなたが誰であろうと、僕たちのお客様であられたことにはお変わりないじゃないですか。」
笑顔で大道芸人は次元の頬にキズテープを貼った。
その間不二子は次元の隣で少し不機嫌気味に立っていた。
すると先ほど宙吊りにされていた女性が次元に近寄る。
「…ありがとう。私がいなかったらあなたは怪我をしなかったのに。」
「済んだことだ、気にすんな。」
次元は笑いかけると女性は頬を幾分赤らめ、微笑んだ。
それと同時に不二子の顔も険しくなる。
「じゃあな、頑張れよ。」
次元が立ち上がると、大道芸人たちは手を振ったりお辞儀をしたりして2人を見送った。
「もう大丈夫なの?」
「何が?」
「防弾チョッキは着てると思うけど、肩に弾当たってたでしょ?」
「…よく分かったな。」
初めに囲まれたとき、次元の左肩に一発男の弾が当たっていたのを不二子は見逃していなかった。
「ま、そんな痛くねぇしアジトに戻ってから手当てするさ。」
「ふーん…。」
「…なぁ不二子。お前さっきから何か不機嫌だな。」
次元が不二子を覗き込もうとした時、後ろから次元の肩が叩かれた。
振り向くとそこには女子高生が3人ほど立っていた。
「?俺に用か?」
すると女子高生は力強く頷いて次元に近寄る。
「さっき、すごくかっこよかったです!何かやっておられるんですか!?」
「何って…流浪人、かな?」
「良かったら写真撮って下さい!」
「あ?あぁ、構わねぇが…おい不二子っ、待てよ!」
次元が困り果てたような姿も余所に、不二子はヅカヅカと先に行ってしまっていた。
「心配して損したっ…。」
アジトにて。
「おい不二子。何だ、俺が悪いんなら謝るが…理由は何だ?」
「知らないっ!」
「おい次元ー、不二子ちゃんに何したんだよ?」
「わかんねぇから困ってんだろが。」
「またお主の軽率な行動ではないのか?」
「だから何もしてねーって。」
「ばかっ!!」
-fin-
◯リクエスト第11弾!
「モテモテなのに鈍感で気付かない次元と、それにヤキモキする不二子」
です!
如何でしたでしょうか?
長くなってしまった上に
何だか分かりにくい内容に…(汗)
すみませんっ!
リクエストありがとうございました!
Thank you for reading!!
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