17cmの遠距離恋愛
ヴゥゥン…
一週間ほどちょっとした一人旅に出掛けていた不二子は、延々と続く長い線路に沿って歩いていた。
すると後ろからきた車が、クラクションも鳴らさずに近付き、不二子の歩くペースに合わせてスピードを落とした。
不二子がその車の運転手をちらりと横目で見ると、運転手は窓を開けて親指で助手席を差した。
「乗っていくか?」
目深に被った帽子の下から不二子を見ると、不二子は黙って助手席の扉の方へ回った。
「こんな長い間お出かけなんて、粋なことすんじゃねぇか。また男から金巻き上げてきたのか?」
タバコを吹かせながら、次元は口角を上げる。
次元の目の前の灰皿には、山のようなしけもくが沢山置かれていた。
不二子は腕を組んで右の薬指にはめたダイヤの指輪を見せる。
「こりゃ大したもんだ。」
「せっかくロンドンまで行ってきたのよ。手ぶらで帰ってどうするの?」
不二子は自慢気にその指輪を見せた後、ゆっくり外す。
すると次元は目を丸くした。
「何だ、外すのか?」
「だって右の薬指につけていたら『恋人募集中です』って言っているのと同じって聞いたんだもの。」
つけ足しの言葉は飲み込んで、不二子は作った笑顔を見せた。
次元はその小さな行為に気付かず、タバコを灰皿で揉み消す。
「お前さんはルパンの彼女だもんな、形だけは。」
山盛りの灰皿から長めのしけもくを抜いて、また吹かす。
鈍感な男にため息をついて、悩める女は窓から空を見上げる。
空にははっきりと丸いとは言えない、欠けた月が浮いていた。
沈黙の中、長旅での疲労のせいか、不二子はいつの間にか眠りについていた。
次元は後部座席にある毛布を不二子にかけてやると、アジトへ向いていた車を反転させてアクセルを踏んだ。
パチ
「……ん。」
不二子が目を覚ますと、そこは夢を見る前と同じ景色。
違うのは、自分に毛布が掛けられていたことと、隣にいた男の姿がないことだ。
「次元……?」
毛布をたたんで車を出ると、そこは海沿いの丘だった。
ザザ、と海の波は絶壁にゆったりとぶつかっては離れてゆく。一吹きの風は不二子の髪を弄び、不二子はそれを手櫛で直す。
キョロキョロと周りを見渡すと、少し離れた場所に次元が紫煙を燻らせずに、どこか遠くを眺めているのに気付いた。
「次元?」
「お。起きたか。寄り道して悪ぃな。」
歩いてきた不二子に目を向けると、次元は小さく微笑む。
不二子はその笑顔で、先程喉で隠らせた言葉を危うく出してしまうところだった。
「珍しいじゃない、アジトに帰らないなんて。どうかしたの?」
「気が変わったんだ。たまにはいいと思ってな。」
期待させないで
「そう…、でもここには私しかいないわよ。他に可愛い子がいれば良かったのにね。」
「今は…お前でもいいさ。」
お願い
「そうだな」って言って笑って
これ以上、苦しめないで
不二子は無意識に涙が溢れ、空を見上げる。
その目線の先には、月と瞬く星が少し距離を置いて光っていた。
涙で星は滲んで見えにくかったが、目を擦ると鮮やかにそれは姿を見せる。
すると不二子は黙ったまま、その2つに手を伸ばした。
「どうした?」
次元が不二子の方を見る。
幸い、暗闇のお陰で涙を見られることはなかった。
「月と星はここからじゃ手のひらくらいの距離なのに、本当はもっともっと離れているのよね。」
声が少し潤んでいたが、次元はそれに触れずに空を見上げる。
「手のひらサイズの遠距離だな。」
寂しそうに次元が溢すと、不二子はくるりと体の向きを変えて車に向かう。
「まるで貴方と私のようだわ…。」
不二子が助手席に座ると、次元はもう一度月を見て帽子を押さえ、車に乗った。
外とは違って車内は温かかったが、不二子は「寒いわね」と1つ嘘をつくと、窓からまた空を見た。
サンタクロース
貴方なら、私の願いを
叶えてくれますか
月と星との距離をどうか
近付けてくれますか
「寒いんなら暖房上げるか?」
「ありがと。でも大丈夫。」
きっと、どんなに温かくしても
私の体は冷えたままだから
次元は「そうか」とだけ答えて、名残惜しそうにアクセルを踏んだ。
-fin-
◯リクエスト第5弾!
「次←不」です(^O^)
17cmっていうのは女性の
手のひらの大きさのイメージです。
一応「次←不」の設定ですが
「次(→)←不」な感じでもあります*
この2人の恋は
本当に切ない(´;ω;`)
リクエストありがとうございました!
Thank you for reading!!
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