消えぬ狼の血

─夜中2時過ぎ─

五右ェ門は気配を消して寝室を出た。
足音も立てずに、ある部屋の扉をゆっくり開く。
ギィという鈍い音を立てながら扉は五右ェ門を受け入れた。その部屋に入ると、一人の男がそこで寝息を立てて眠っていた。
五右ェ門はその男に近付き、斬鉄剣に手をかける。
風さえも止まっているように、男の寝息だけが響く。

カチャリと刀を引き抜くと、五右ェ門はピクリと眉を動かした。そして斬鉄剣を最後まで引き抜く。

「いつから気付いていた。」

寝ているはずの男に、声のトーンを落として話しかける。他の部屋にいる人物に気付かれないようにだ。
すると五右ェ門の目の前に寝ていた男がゆっくり目を開けた。口角も同じように上がり、いつもの不敵な笑みで男は口を開く。

「お前さんが入ってきて2秒後くらいかな?五右ェ門にその気があるとは思わなんだー。」

「戯け。お主を襲うくらいなら自らこの命を捨てる方がマシだ。」

息を出来るだけ吐かずに、クックッと喉を鳴らしながらルパンは五右ェ門を見上げる。

「お前さんは本当に狼だなぁ。そんなに俺を殺したいか?」

「本来ならば馴れ合うべきではない。故に現時こうしてお主の命を頂戴したいと請う。」

「よしてくれよ。ベッドの上で永遠の眠りにつくのは本望だが、血生臭ぇ上にかわいこちゃんと一緒じゃねぇと寝るに寝れねぇ。」

ルパンは五右ェ門の願いを拒否したが、逃げたり、反撃したりしようとはしなかった。それどころか、じっと五右ェ門を見つめ、まるで「殺れ」と言わんばかりな挑発の視線を向けた。

「お主は初めて会った時からそうだ。外見は飄々としているが、何らかにすがり付くこともなく、請うこともない。だがその目の先に、某には解りかねる何かを止めている。」

五右ェ門は斬鉄剣を構える。

「その目、侮辱はせぬが今後一生許すことも無かろう。」

ルパンはため息をついて、また喉を鳴らして笑った。

「この目は色んなお宝やものを見てきたんだよ。なかなか良いもんなんだぜ。」

五右ェ門は少し口角を上げて、そこから赤く尖った舌を出し、目釘を湿した。

「ではその目に何も映らぬよう、某が抉り取ってやろう!」

シャッとほんの僅かな音を立てて五右ェ門はルパンの目を目掛けて刀を突き立てた。

「………っ!!」

だが、斬鉄剣の刺さった場所にルパンはいつの間にやらいなかった。
五右ェ門は驚愕し、辺りをキョロキョロと見回した。

「全く、お前はよ…待つってことを知らなすぎなんだよな。」

ルパンはベッドの裏側から姿を見せた。
ため息をついて立ち上がると、ポケットに手を入れて五右ェ門を見る。
五右ェ門の嫌いな、あの目で。

「俺は泥棒なんだから、自分のもんを簡単には盗られるわけにはいかないでしょ。」

五右ェ門は斬鉄剣を構えたまま、ルパンに向き直る。眉間に皺を寄せたまま、黙ってルパンを睨んだ。

「何故だ。何故某を殺さぬのだ。某はお主を本心で斬ろうとしているのだぞ。」

ルパンは胸ポケットからタバコを取り出し、口に加えてライターで火を付けた。
一度煙を吐くと、ニヤリと五右ェ門を横目で見る。

「俺はお前が気に入ったって言っただろ?何でわざわざ殺さなきゃならねぇ。それにな、」

ルパンはゆっくり五右ェ門に歩み寄る。
ベッドを回り、煙でわっかを作って遊びながらコツコツと足音を立ててピタリと立ち止まる。
五右ェ門の斬鉄剣がギリギリ届く所で。

「さっきも言ったようにこの俺様の目は色んなお宝を見てきた。そんな目がお前を気に入ったんだ。…分かるか?俺が何を言いたいか。」

タバコの灰が床に落ちる。
その瞬間、五右ェ門は斬鉄剣を振り下ろした。

ポタリ

床に赤い血が染みていく。

同時に五右ェ門が微笑む。

「どうやら俺はそのような利いた目ではないようだ。」

五右ェ門は刀の先に付いた赤い血を直接舌で舐めとる。
ルパンの左頬には、横に赤い線が一本引かれており、そこから床に落ちた液体と同じものがゆっくり流れていた。

「そりゃ残念。ま、途中下車しようとも下ろしてやんねぇかんな。」

ルパンはクスクスと笑いながら頬を拭った。
赤い血がルパンの手の甲をじんわり染める。

「やれるものならやってみるがいい。」

五右ェ門は斬鉄剣を鞘にしまい、くるりと振り返った。
そのまま出ていき、ルパンはため息をついてベッドに仰向けに倒れた。

「ありゃ相当なもんだな。面白い奴だぜ、全く。」

手で瞼を押さえ、ルパンは笑った。

頬から微かに香る血の匂いは野良の習性が残る狼の足跡として鼻から少し吸い、ルパンの手に付いた血は狼の爪痕をとして、れろ…と舐めた。

「いつか、笑い方はその1つしか知らねぇしかめっ面を変えてやるよ。」

満月を見て、今宵も狼は吠えるのか。


-fin-

◯ルパン+五右ェ門です(^^)
先ほど1stを少し見ましたが
五右ェ門かっこよすぎる…
なのでこれは1stをイメージしました。
ルパンは常に命の危機を感じていても
それさえ好物の「スリル」として
受け入れている気がします*
1stはハードボイルドで
本当にかっこいいなぁ…
あと、ごえの「俺」って
素敵すぎますよね(笑)

Thank you for reading!!


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