10秒間の現

うっすらと雲間から覗く太陽の光に照らされ、白く輝く雪がゆっくり地面を真っ白に塗っていた。

不二子は少し咳をして、窓を眺めた。
雪は止まることを知らず、降り続けている。

「寒いわね…。」

体を丸めて小さく身震いをし、不二子は羽織っていた毛布の裾を握った。

ルパンたちは今回は不二子を置いて、現在は使われていない地下牢に潜入していた。
だがそこにいた見張りの兵士たちに襲われ、3人はバラバラに別れてしまった。
ルパンと五右ェ門はその後なんとか落ち合うことはできたが、次元とは合致することができないでいた。
ルパンと五右ェ門は一度アジトに戻り不二子に次元が戻ったか聞いたが、不二子の元に次元はいない。
急いで2人は地下牢に戻っていき、不二子は1人になると、魂が抜けたようにリビングの椅子に座り込んだのだ。

「無事なんでしょ…?じゃあ帰ってきてよ…っ。」

今回何故不二子を置いていったかというと、その地下牢が使われていた時は、捕まった囚人がそこで極悪な拷問をされていたと言われ、今でもそこに入ると見張りに当時と同じ刑にされると言われているからだ。
いくら普通の女性より強いとはいえ、不二子は女性。ルパンは、もしかすると男性より酷いことをされるかもしれないと思い、不二子を置いていった。
地下牢へ行く時、ルパン、五右ェ門、次元の順番に部屋を出ていき、ドアを開けようとすると、次元は振り向いて、笑顔で不二子の頭を撫でた。

「いい子に留守番して待ってろよ。」

不二子は「子供扱いしないで」と怒りながらも紅潮していた。


「次元…帰ってきて…。」

消え入るようなか細い声で、不二子は神に祈る体勢で俯いた。いくつも涙を落としながら、ただただ震える。

コンコン

すると、玄関のドアのノック音が聞こえた。
不二子はそれを無視したが、もう一度ノックされ、ゆっくり立ち上がって玄関に近づく。

「悪いけど…今は誰かと会える気分じゃないの。」

そう言って玄関から離れようとすると、ドアをノックした人物がドア越しに声をかけた。

「話せるなら安心だよ。また泣いてんじゃねぇかと思ってな。」

その声の主は紛う事無き相手。

「っ…次元…!?」

不二子はドアに走り、急いで開けようとしたがドアは開かない。鍵も閉めていないのに。

「待ってくれ。今はまだ…開けるな。」

ドアは反対側から次元が開かないように押さえていたのだ。
苦しそうに次元が言うと、不二子はその場に座り込んだ。
先ほどとは段違いの涙を流しながら、拳を握った。

「次元…っ、無事なら、顔…っくらい、見せなさいよ…!」

しゃくりあげながら不二子は言う。
ずっと心配をしていて、目の前にその相手がいるのに、会えない。抱き締めてほしいのに、キスをしてほしいのに、笑顔を見せてほしいのに、してくれない。

不二子はただ涙を流して嗚咽が込み上げていた。

「…今、お前さんに会ったら、朝まで離れられなくなりそうなんだよ。アジトには戻らなきゃならねぇしな。」

「……っ。」

ドアを見上げて、不二子は涙を拭く。たった一枚の壁。それがこんなに愛する者との距離を遠ざけてしまうなんて。
だが不二子はこれ以上次元を止めておきたくなかった。
次元はかなりの怪我を負っているはずだし、それは今は自分では治してあげられない。だからすぐにでもアジトに戻り、ルパンか五右ェ門に手当てをしてもらった方がいいのだ。

「…不二子。」

胸が締め付けられる優しい声。

「…ごめんなさい。もう行って。早くルパンたちに、怪我を…。」

全て言うことはできずに、不二子はまた泣き出した。
本当は会いたいのに言いたくなくて。

すると、次元はドアをノックした。

「なぁ不二子。今から10秒間、絶対に目を開けないでくれ。」

「え…?」

「分かったか?」

唐突な言葉に不二子は小さく頷いて返事し、目を閉じた。

すると少し肌寒い風が不二子を包む。そのすぐ後、風以上に冷たい体が不二子を抱き締めた。
微かに煙草の香りがする。そして血の匂いも混ざっていた。

「また後でくる。それまでがお留守番だ。」

耳元で囁かれると不二子から冷たい体が離れ、そのすぐ後にパタンとドアの閉まる音が聞こえた。

不二子が目を開けるとそこは10秒間前と何も変わらない景色。
不二子は俯いて地面を見る。そこには溶けかけている雪と赤い雫が落ちていた。

不二子は何も言わず、体温より温かい一滴の涙が、不二子の頬を伝い、地面の雪にじんわりと混ざっていった。


-fin-

◯シリアスな雪のお話。
待ってるのはとても辛いですよね。
弱気な不二子ちゃんも
優しく包む次元。
大好きだから会えない、を
テーマにしました(^^)

Thank you for reading!!


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