男+酒=素直

ガチャ

不二子は私的の買い物から戻ると、赤いコートを脱いで玄関から一番近いクローゼットにしまった。
部屋は真っ暗で物音もしない。不二子はいつもの事ながらその事に少し寂しさを覚え、ため息をつく。
こういう時は、いつにも増して愛する者に会いたくなるのだ。

「全く…たまには自分から会いに来たらどうなのよ。」

不二子は愚痴を溢しながらダイニングへ向かった。

いつも会いに行くのは自分から。相手はルパンと一緒にいる、ということもあり、なかなか会いに来てくれない。
その事に不二子は、小さな不満を抱いていた。
今会いたいとは思っていたが、女のプライドというものか、今日は自分からは会いに行かない、と断固として部屋を出ていこうとはしなかった。

バタンッ

その時、勢い良く玄関のドアが開く音が部屋を揺らした。不二子は咄嗟にガーターからブローニングを引き抜き、壁に背中を当ててゆっくり玄関をうかがった。
だがそこには予想外の人物。

「…次元?」

一秒前まで不二子が想っていた男、次元大介が玄関にゆらりと立っていた。
不二子はブローニングをしまい、次元に駆け寄って顔を覗き込んだ。

「どうしたの?わざわざ来てくれるなんて。」

内心はとても嬉しかったが、敢えてそれはさらけ出さず不二子は笑顔を向けた。だが次元の顔は、思っていた以上に険しかった。

「なぁ不二子。」

ドサッ…

ひどく冷静な声で次元は不二子をその場で押し倒す。背中に衝撃が走り、思わず不二子は顔を歪めるが、それどころではない。どう考えても次元がおかしい。

「なっ…ちょっと!何なの!?」

抵抗しようと身悶えするが、次元は不二子の手首を床に押し付けて、力を緩めようとはしなかった。
次元は見下すように、不二子を見つめる。その顔は恐ろしいほど優しい表情だった。

「俺はよ、なかなかお前に会えないからな、いっつも我慢してやってんのにお前は昨夜何処の野郎と遊んでたんだ?」

不二子は次元の表情を見ると、寒気が自分を襲うのが分かった。
確かに昨夜は男の元へ出掛けていた。だがその男は次に潜入する美術館のオーナーで、仲良くしておいた方が後々やりやすい、という判断で昨夜は一緒に食事をしただけだ。何も疚しいことはしていないし、ましてや夜を共にするなどもってのほか。不二子は次元を怒らせないように必死に訴えた。

「昨夜は一緒に食事をしただけで何もしていないわ!今後も会うつもりもしてないの!」

だがその行為も虚しく、次元は聞く耳を持たなかった。

「どうだかな。まぁどちらにせよ俺は今怒ってるんだ。分かってるとは思うが、優しくはできねぇぜ。」

「次元!待っ…んん!」

抗議しようとする不二子の唇に、次元は押し付けるように自分のを重ねた。舌で不二子の閉ざされた唇をこじ開け、口内へ侵入する。触手のようにそれは不二子の口の中を暴れ、同じ感触のするものを見つけると、巻き取ろうとする。
不二子は舌を手前にひいて、触手から逃げようとするが、舌の裏を舐められ、喘ぎ声と共に舌を差し出してしまった。

「あ…ふっ、んぅ…っ。」

不二子の口からは涎が流れていくが、そんな事は気にしていられなかった。
一度捉えられるともう抵抗はできず、不二子はされるがままになっていた。
不二子はその時、小さく鼻で息を吸った。すると、過剰なある匂いが鼻腔を刺激した。

「(これ…スコッチ…?)」

ゆっくり目を閉じて、手首も抵抗するのを止め、次元を身を委ねようと不二子は覚悟を決めた。

ゴッ…

突然の鈍い音に不二子ははっと我に還る。すると次元は不二子の口内を犯すのを止め、不二子に倒れ込んだ。その次元の後ろには、呆れた顔の五右ェ門が立っていた。

「この愚か者が…。」

「五右ェ門!?どうして…。」

自分より体重の重い男にのしかかれ、動けない不二子に気付き五右ェ門は慌てて次元を起き上がらせた。次元は五右ェ門に後頭部を打撃され、気を失っていた。

「すまぬ、不二子殿。わけは拙者が説明致す。」


次元をソファーに寝かせると、ダイニングテーブルに不二子と五右ェ門は向かい合うように座った。

「実は先ほどルパンと次元が酒の飲み比べというものをしていて…。」



「そういや次元。昨日不二子ちゃんが何処行ってたか知ってる?」

「あ?不二子?知らねぇな。どうせまた男から金でも巻き上げてんだろ。」

「それがよー、なんか今度行く美術館のオーナーの親父の所に行ってんだよ。」

「……は?」

「まさかお宝頂く前に不二子が頂かれてたりしたらどうしよー!…ってあら?次元ちゃん、どこ行くんざましょ?」

「不二子ん所だ。」

ガチャ

「む、次元。出掛けるのか?…お主、そうとう酔っているようだが大丈夫なのか?」

「心配ねぇ。今から不二子にお灸据えてくるだけだからよ。」

「はっ?ま…待て次元!」

「五右ェ門〜、次元行っちゃったから相手してよ〜♪」

「なっ…離せルパン!くそっ、次元待たぬか!」



「………というわけなのだ。拙者が早くに止めていれば…。」

五右ェ門が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。不二子は話を聞いて唖然とした。

「じゃあこれはただの泥酔親父の次元なわけね?」

「左様。怖い思いをさせてしまって誠に申し訳なかった。」

不二子はほっとしたように首を振る。

「いいのよ。五右ェ門のせいじゃないし、一応未遂で終わったわけだし。私も本心から抵抗はしてなかったから。」

五右ェ門は目を丸くして不二子を見る。不二子は優しく笑っていた。
五右ェ門はそれを確認すると同じく微笑み、次元を一度見て、席を立った。

「そろそろ起きるであろう。その頃には酔いも覚めているはずでござる。して、拙者はこれで。」

五右ェ門は静かに部屋から出ていった。
不二子は次元をのぞきこむ。そしてゆっくり頬にキスをした。

「……。」

「起きたかしら?」

「まさかお姫様のキスで目覚めれるとはな。」

次元はゆっくり体を起こして、不二子の唇を指でなぞる。不二子はキスされるのかと思い、目を閉じた。その瞬間、不二子の肩がビクッと跳ねたのを次元は見過ごさなかった。
不二子は気付けば次元の腕の中にすっぽりとおさまっていた。

「次元…?」

「不二子、悪かった。怖い思いさせちまって。」

次元の腕に力がこもる。
温かい胸、いつもの煙草の匂い、優しく甘い声。
先ほどの次元とは全く別のような愛する者に包まれ、不二子は涙が出そうになるのを必死に堪えていた。

「いいの。あたし、貴方に会いたかったから…。」

不二子は精一杯普段の声で次元に言った。もちろん、顔は見ずに。次元は不二子の頭を撫でて額に温かい口付けを落とした。

「なぁ不二子。」

「何?」

「一回だけ、謝罪も含めてキスしていいか?」

次元が不二子の耳で囁く。不二子はくすぐったそうに身をよじって次元を見上げた。

「仕方ないわね。」


不二子はゆっくり瞼を閉じた。


普段より積極的で、
素直な貴方に惹かれたのも
事実なの


-fin-

◯かなり?強引な次元ちゃん。
不二子ちゃんのことになると
冷静さを忘れるというイメージで(^^)
若干五→不のように見えたのは
きっと気のせいです(゚∀゚)

Thank you for reading!!


[back][next]




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -