侍の覚悟
「よう五右ェ門。」
五右ェ門が修行で山あいの滝の前で座禅を組んでいると、あろうことか、次元大介がやってきた。
「次元っ、お主も滝に打たれに来たのか?」
五右ェ門が振り向いて次元に声をかけると、次元は困ったような笑顔を向けて首を振った。
「んな馬鹿な。お前さんと同じメニューの修行なんかすれば死んじまうよ。お前が修行の時は携帯を持ち歩かねぇから、わざわざ来たのさ。」
すると五右ェ門は斬鉄剣を持ってさっと立ち上がり、次元に向き直った。
「急用か、それはすまなかった。それで用件は?」
「いいってことよ。不二子が町で紫ちゃんを見つけて喫茶店にいるらしい。なんか五右ェ門に用があるんだと。車置いてっからついてきな。」
次元のあとを追うと、いつものベンツが山の中に無造作に置かれてあった。
車に乗り込むと、次元はすぐに発進させた。
ガタガタと揺れながら山を抜け、やっと普通の道路に出た。
「ところで五右ェ門。」
しっかり太陽の当たる道へ出ると、次元が助手席に座る五右ェ門に声をかけた。
「お前さんはどうしてまたあの嬢ちゃんと結婚しようと思ったんだ?」
少し都会に近付き、1つ目の信号に引っ掛かる。
「拙者も初めは気が進まなかった。だが墨縄家を通ううちに紫殿に会う回数は増え…いつの間にか紫殿を想う事も増えていたのだ。」
信号が青に変わる。
紅潮しながら五右ェ門が言うとははは、と次元は笑ってアクセルを踏んだ。
「そうかい。お前さんも若いなぁ…ってまぁそりゃそうか。」
次元がくくっと喉を鳴らすと、五右ェ門は次元を横目で見た。
「そう言うお主こそ年を考えろ。ルパンがおらぬと何かと戯れよって。」
その最中に帰宅する拙者の身にもなってみろ、と少し怒りながら言うと次元は肩をわざと揺らせて、怖がる素振りを見せた。
「おぉ怖ぇ。ま、ほどほどにしとくさ。だがお前はよく我慢できるなぁ。」
五右ェ門は一瞬何を言われたか分からず、きょとんとして「何がだ?」と聞き返してしまった。その顔を見て次元は一言、
「紫ちゃんとイチャイチャしたくねぇのか?」
と言った。五右ェ門は怒りのせいか、照れのせいか、顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「拙者はお主らのように辺りを構わず馴れ合うことなど致さん!」
「何でそんなに怒んだ。小さな疑問だろ?それに紫ちゃんは案外馴れ合いたいのかもよ?」
「ぐっ…。」
五右ェ門は言葉がつまった。
紫自信は本当は五右ェ門ともっと触れ合いたいと思っているかもしれない。
そう思うと五右ェ門は自分の考えに間違いがあるのか、とも思い始めた。
「拙者は…あまり分からぬ。人様の前で馴れ合いたいなどはあたり思わんのだ。」
「紫ちゃんみたいな若ぇ女の子は人前でイチャつきたかったりすんだよ。人に見せつけるんじゃなく、何処でも自分を愛してくれてるっつう証みてぇなもんが欲しいのさ。」
厄介な年頃かもな、と笑いながら次元が言うと五右ェ門は眉間に皺を寄せて小さく唸った。
「不二子殿はどうなのだ。そういう風にお主に言ったのか?」
次元はきょとんとし、視線を上に上げて、今までのことを思い出してみた。
「不二子?いやー、言わねぇな。大体俺等はルパンに見られればまずいしよ。でも不二子が良いって言えば俺はいくらでも人前でキスだのなんだのとできるぜ。」
「そうか…そういうものか。」
五右ェ門はため息をついて、あからさまな負のオーラを纏う。次元はそれを見て哀れみ、頬を人差し指で掻いた。
「まぁ…紫ちゃんも可愛いからな、仕方ねーよ。大切にしたいって思ってんだろ?五右ェ門は。んなら無理に喜ばそうとする必要はねーんじゃねーか?」
だいぶ不二子と紫のいる喫茶店に近づいてきた。
ポンポンと肩を叩きながら次元は五右ェ門を励ます。「うむ…。」と腑に落ちないような返事をすると、次元は五右ェ門から離れ、また運転を続けた。
「んじゃあな、今日はまだいい。次に紫ちゃんに会うときまでには覚悟決めな。」
「覚悟?」
負のオーラを引き連れたまま、次元の方を見る。次元は口角を上げ、帽子の下から五右ェ門を見る。
「おう。人様の前じゃなくていいからよ、外で紫ちゃんにキスしてみな。」
「んなっ…!?」
「さーて着いたぞー♪」
驚愕している五右ェ門を差し置いて、次元は車から降りていった。慌てて五右ェ門もあとを追う。
そして喫茶店のドアの前で立ち止まって勢い良く次元は振り返った。真後ろまで迫っていた五右ェ門が驚いて少し身をひく。
「お前は男だ五右ェ門。やれば出来る!」
そう言うとずかずかと喫茶店へ入っていってしまった。肩を落として五右ェ門も続くと、不二子と愛らしい笑顔をした紫がこちらを見て手を振っており、いつも以上に紅潮してしまっていた。
-fin-
◯何のこっちゃ。
これだけじゃ面白くないので
後日紫ちゃんに会ったごえの
話もいずれ書きます♪
そしてこの後は
「紫ちゃん、五右ェ門に用事なんだって?」
「あっ…えと、大した用じゃないんですけど…。」
「?」
「五右ェ門様に会いたくて…来ちゃいました。」
「っ!?」
「まぁ、可愛いんだから紫ちゃん♪」
「全くだな。ん?どうした五右ェ門。」
「何でもござらん…っ!(真赤)」
「(面白すぎる…。)」
という感じでした*(笑)
Thank you for reading!!
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