パンドラのハコ

「五右ェ門?」

修行から帰ってきて部屋に戻るなり、奥の部屋から不二子がこちらへ向かってきた。
赤いドレスを身にまとい、胸元には眩い光を放つダイヤのネックレスを催していた。

「何か用か。」

五右ェ門はまともに視線も向けずに返事をする前から向かってくる不二子を横切り、そのままスタスタとリビングへ向かった。
不二子は五右ェ門の反応に少し不満を感じながらも五右ェ門の後ろについていった。

「冷たいのね。ちょっとこれ手伝ってくれない?」

「……。」

リビングに入った後振り向くと、不二子は五右ェ門に背を向けていた。
そして不二子が指差す先は不二子自身の背中。
艶やかなドレスのジッパーが、お互い不仲そうにだらりと項垂れている。

「ルパンはおらんのか。」

五右ェ門は一瞬目を見開いたが、それを悟られまいと瞬く間に平然を装い、眉間に皺を寄せる。

「知らないわ。大体ルパンだったらジッパー上げるだけじゃ済まないもの。」

「……。」

2秒考えた。
3秒後、五右ェ門は不二子に近づきジッパーに手をかけた。
目を疑うほど白く無垢なその背中にできるだけ五右ェ門は意識がいかないように無想する。

「ごめんなさいね。このドレス素敵なんだけど、このジッパーだけはどうしてもあたしだけじゃできなくて。」

「ルパンや次元がこの事を知ればまたとやかく言われるぞ。」

「ふふ。目に浮かぶわ。」

「全く…。」

五右ェ門が少し不機嫌そうに言っても、不二子はそれさえも受け止める母親のように微笑む。
ジー…とジッパーを上げる。
たまにドレスを噛むが、その際は少しめくって噛んだ部分を引っ張り、できるだけドレスが傷まないように尽力した。
その間も、不二子のきめ細やかな肌は五右ェ門を見上げている。

「ルパンは魅力的なお宝とってきてくれるし、愛してもくれるけど、」

独り言か話しているのか区別がつかないほどの小さな声で、ぽそり、と不二子が呟く。
ジッパーを上げる五右ェ門の手が急いだ。
ジッパーが上がりきる数秒前に、不二子が少し肩を揺らした。

「あなたほどお堅くて、無垢で、優しい人はいないわ。」

チャ、と不二子の背中の肌がしっかりと隠された。
仲良さそうにぴったりとくっついているジッパーから手を話したが、五右ェ門は不二子から目線を外さなかった。

「不二子、」

なぁに、と聞かれる前に、五右ェ門は不二子の後頭部に額をぴたりとつけていた。
そのまま腕を不二子の前に回し、小さく力を込める。

「五右ェ門?」

「……。」

「どうしたの?」

「……。」

不二子のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
束の間であったが、五右ェ門ははっと我に返り、非現実的なものを見たかのような勢いで不二子から離れた。
その勢いに不二子も驚いて振り返ったが、そのすぐ後くす、と笑みをこぼした。

「いや、何でもない。」

「嘘。何でもないわけないじゃない。びっくりしたわ。」

五右ェ門は言い訳にもならない、苦しすぎる台詞を吐き、この後どういった行動をとることが正解なのか、脳内で模索していた。
しかし経験が決して多くはない五右ェ門の脳内では「下手な言い訳をしない」ということしかできなかった。
それを感じ取った不二子は、笑みを浮かべたまま五右ェ門を見上げる。

「あなたでもこんな事するのね。」

「……御免!」

耐え切れなくなった五右ェ門はそのまま振り返って走り出そうとした。
しかし、ここに残る後ろめたさは振り切れず、少し足を止め、口を小さく開いた。

「…俺には、ルパンのようにはなれん。」

そのまま部屋を出ていき、不二子は引き止めもせず黙って後ろ姿を見ていた。
微かな体温が肩に残る。
小さく波打つ心臓に耳を傾けながら、ため息をついた。

「…意気地なし。」

そして、鈍感な人。

男の人っていっつも自分のことばっかり。
自分本位っていうか、周りがみえてないっていうか。

答えはすぐここにあるのに。
怖がりのあなたは絶対に開けようとしないこのハコの中に。

あなたが気付くまで私はどれだけ待ったらいいのかしら。

不二子は髪をかきあげ、部屋に誰も戻ってこないうちに本日の予定であったパーティーへと足早に出かけた。

-fin-

〇リクエストを頂きました、
「シリアスなゴエ×不二子」です!
あ、あれ…?シリアスさが皆無…??
折角リクエストしていただいたのに申し訳ありません…;;
ごえふじは書いたことなかったので
加減が難しかったですが、
本当に楽しかったです…(^^*)
また書かせていただきたいと思います!
リクエストありがとうございました!

Thank you for reading!!


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