YesとNoは紙一重

「待ってくれよマ〜シ〜。」

「知らない!もう二度とあたしの前に現れないで!」

「マーシちゃんったらマー…。」

バタン!
勢いよくドアが閉められる。
何があったのか、細かいことはわからないが、通りかかった人間にもわかることは一つ。
ルパンはバーの女性にビンタをくらってフラレたということだ。

「はあ…ついてないぜ、ったく。」

ため息をついて、コンクリートの階段を下りる。
薄暗い。バーは路地裏にあったため、ネオン看板から遠のくとかなり暗く、その上昨夜は雨が降っていた。
滑りやすい道を用心深く思い足取りでゆっくり進む。

パッパー

道路に出ると、クラクションを鳴らしてルパンの目の前に止まる車が一台。
ルパンはそのまま車に乗り込み、胸ポケットから1本煙草を取り出した。

「フラレた俺を慰めに来てくれたのは嬉しっけど、仕事も金も持ち合わせてないぜ次元ちゃん。」

「そいつは残念だな、一杯奢ってもらおうかと思っていたんだが。」

「?!」

いつもの相棒の声ではない。
勢いよく運転席を見るとそこにいたのは、毎日毎日逃げ続けている長年のライバル。

「と、とっつぁん?!」

「ハーッハッハッハ!!ルパン!久しぶりじゃないかあ!」

「ど、どったのこんな時間にしかもこんなところでこんなシチュエーション…。」

目の前にいる、予想もしていない相手にルパンは狼狽えるが、銭形はそれには構わず大きな口を開けてガハハと笑った。

「何、身構えるんじゃない。ただお前とデートしたくなっただけだ。無残にフラレて一人ぼっちになったお前とな。」

「イヤミを言われる気分じゃないんだがね。」

「おっとすまんすまん。まああのお嬢ちゃんのことは忘れて夜風に身を任せようじゃねぇか♪」

「……。」

ルパンは恨めしそうな、怪しむような目つきで銭形を睨みながら助手席に乗り込んだ。
排気ガスを断続的に吐き出しながら、銭形は車を前進させた。

夜の車道をネオンが照らす。
車内BGMは銭形の鼻歌だけで、たまに外から大型バイクの吹き鳴らしエンジンが聞こえる。

「どこに行くのよ。」

ぶすっとした態度でルパンは手を後頭部で組み、クラッシュパッドに足を上げた。

「別にどこでもない。お前さんとドライブデートしたいだけだ。」

「それがなんか気に食わないんだよね〜…。」

外に視線をやる。色とりどりのネオンが街の中を循環しており、相手によってはいい雰囲気を作り出す材料だが、そんな事は頭によぎりさえもしなかった。
ルパンのつれない態度を横目に銭形はなんとも不思議そうに声を掛ける。

「なんだと。嫌なのか?」

「嫌に決まってんだろ。何が楽しくてとっつぁんとデートしなくちゃいけないのよ。」

「つれない奴だなぁ。折角誘ってやったというのに。」

「No thank you.」

信号が銭形にアクセルペダルから足を離すように支持する。
ゆっくり車は停車し、銭形はシートにもたれ掛かる。

「で?何が望みなのとっつぁん。」

あん?といった表情でルパンを見る。
ルパンは身を乗り出し、銭形に人差し指を突きつける。

「俺がいるのに何の用もないわけないでしょ。あ、この後とっつぁんの巣窟にでも連れて行こうとしてるのかな?」

ピコピコと指を動かし、銭形から心境を探ろうとしているが、銭形は会った時から何一つ表情を変えずに続ける。

「まだそんな事言ってんのか。疑り深いと女にモテねぇぞ。」

「ほっとけ!」

信号が変わる。
銭形がアクセルを踏むと慣性の法則に従って少しよろめく。
ルパンは銭形を睨み、わざとらしいほどのため息をついた。

「もう俺は疲れたよ。最近全部うまいこといかねぇしなー。」

すると眉間に少し皺を寄せ、銭形が前を向きながらルパンに意識を向ける。

「また何かしようってのか。」

「べっつにー。」

沈黙が車内に息苦しい空気を築く。
しかし二人は空気の悪さなど微塵も感じず、ただフロントガラスの先を見つめていた。

「この前仕事で失敗してアジトもばれちまったし、女の子にはフラれるし、とっつぁんには捕まるし。災難ばっかだぜ。」

二回目の大きなため息をつくと、銭形はちらりと視線をルパンにやった。
その視線に築くと、横目で運転席にいる、ほりの深い目を捉える。

「なーにを言ってるんだ、らしくねぇ。」

舌打ちが聞こえてきそうな物言いで銭形は言った。

「お前は前向き後ろ向きはさて置き、どんな状況でも突き進む奴だろう。弱音吐くんじゃねぇよ。」

心底から湧き上がったような、丁寧に嘘に包まれたような、捉え方にとっては二極化しそうな声で言うと、ルパンはやっと微笑んだ。

「ま、俺はそういうやつなんだろうな。あんたから見りゃ。」

ルパンは笑いながら前を向く。
そして様子の変わらない銭形に、若干呆れながら、しかし予想通りといった心境のもと、今回の茶番にピリオドをつけようと口を開く。

「俺から言わせりゃあんたもそう変わんねぇがな。」

「ほう?」

『銭形』の口が弧を描く。

「どんな状況になってもある意味期待を裏切らない。追いかけ続けてもなかなか捕まらない。掴んだところですり抜けられる。」

『ルパン』は笑みを浮かべながらハンドルを握る、今世紀最大の大泥棒を見る。

「そうだろ?ルパンよ。」

運転席に座る人物の表情が変わる。

「…くっく。」

『銭形』は溢れる笑みを抑えようとせず、小さく声を出して笑う。

「さっすがとっつぁん。いつからわかってた?」

「お前こそだ。何が嬉しくて自分の顔をこんな近くで見なきゃならねぇ、気色悪い。」

「俺の特殊メイクマスク、完成度高いっしょ?」

ルパンはアクセルを強く踏み、エンジン音を夜道に響かせる。
銭形は少し迷惑そうにルパンを睨むが、構わずにスピードを出した。

銭形は足を組み直してため息をつく。

「お前さんになりすましてお嬢ちゃんから秘密でも聞こうとしたが、お前、何やったんだ。」

「50カラットのダイヤをあげるって約束したんだけど、失敗しちゃってさー。アジトに置いてたんだけどとっつぁんもご存知の通り、逃げなきゃいけなかったから。」

ここ数日前のルパンの仕事としては、博物館に飾られている50カラットのダイヤを盗むこと。
勿論盗むことまではできたのだが、ルパン逮捕に執念を燃やす銭形の「愛」に勝てず、逃走後アジトを見つけられてしまった。
そのためアジトからは逃げることができたが、今回の獲物はそのまま銭形たちにキャッチアンドリリースしてしまったというわけだ。

当然今回のルパンの仕事については知っていたが、何のためにダイヤを盗むかまでは調べておらず、ルパンの代わりにお咎めを頂戴することになってしまったのが冒頭のマーシーとのやり取りである。

「嘘をつけ。やる気なんてさらさらなかっただろう。」

「〜♪」

余計なビンタを食らった銭形はその事をまだ根に持っているのか、不服そうにぼやく。
しかしルパンは聞こえないわけがないが、返事をする素振りもみせずに鼻歌をまた歌い始めた。

しばらくすると、駅についた。
まだ終電があるのか、人の姿がパラパラ見受けられ、駅の近くに車を停車させる。

「で?とっつぁん、この辺で下ろしていいかい?」

「好きにしろ。今はお前を捕まえる気分でもない。」

「残念だなぁ。」

ルパンは飄々とした態度で銭形に笑いかける。
銭形は降車し、バタンと音を立てて扉を閉めた。
点滅するヘッドライトに照らされながら駅の方向へ足を進める。

「とっつぁん、」

振り向くと、前のドアガラスが開いていた。

「俺、生まれ変わったら多分とっつぁんとは上手くやっていけそうな気がするわ。」

へらへらと笑いライバルに、銭形は一瞬目を丸くしたが、すぐに眉間に皺を寄せ、ふん、と鼻息を出した。

「気持ち悪い事を言うな。生まれ変わろうがどうなろうが、俺はお前を追い続ける。」

「いいね。それ最高だぜ。」

ハハッと笑い、ルパンはそのままアクセルを踏んだ。
車を前進させながらひらひらと手を振っていたが、銭形は振り返すことなく去りゆくテールランプを見続けていた。

-fin-

〇ルパンととっつぁんの騙し合い勝負。
目の前に自分の顔が現れた瞬間に、
二人なら正体に気付きそうです(^^)
途中わけわからなくなった方がいたらごめんなさい!
今回はルパンも銭形も互いに「変装して情報収集作戦」を
決行してたのですが、運悪く(良く?)タイミングが重なって
自分が変装している時に、自分に変装している相手に
会ってしまったという話でした…笑
ちなみに、Yes→恋人、No→宿敵 という意味のつもりです♪

Thank you for reading!!


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