行き止まりは休憩所
「あー、喉乾いたわ。ここの看守は罪人の気持ちをほんっとわかってねぇよ。」
冷たい牢屋にルパンの声が響く。
最新の防犯システムを兼ねそろえたこの牢屋には不必要なものは何一つ無く、ルパンはまるでただの灰色の箱の中に入れられたような気分だった。
バカみたいにべたべた自慢げに仕掛けを見せてくれといたら簡単に出れるのによ。
ため息をつきながら用意されていたシンプルな椅子に座りつつも、内心はわくわくしながら脱出の方法を考えていた。
「うるさいぞ、ルパン。愚痴は心中にとどめておけ。」
ルパンは首を90度回し、声の主を視界に捉えた。
「ならこんな埃っぽいとこに放り込んでくれるなよ。おかげで俺様の喉の調子が悪いったらありゃしねぇ。」
静まり返る牢屋の中、ルパンと同じ埃っぽい空気を吸っていたのは銭形だった。古典的かつある意味才能のある仕掛けと知能でルパンを捕まえ、代わりの者が来るまでルパンを見張っていた。
「黙ることを知らん奴だ…。」
銭形は立ち上がり少し姿を消した後、ルパンに何かを渡した。
「?」
「ほらよ。」
銭形の手に有ったものはマグカップに入ったコーヒー。
ルパンはそれを受け取り、二カッと笑って見せた。
「あーら良い人。とっつぁんそんな優しかったっけ?」
「人情に厚いと言え。ったく…。」
銭形はいつもならここで多少ルパンを小ばかにしたりするが、今回はそれが無かった。
ルパンはそれを不思議に思い、コーヒーを啜った。
「ん?あんま嬉しそうじゃねぇなぁ。どったの。」
「そう見えるだけだ。本当は舞い踊りてぇ気分だよ。」
「あっそう。」
いまいちな銭形の反応にルパンは少しショックを受け、もう一度コーヒーを啜った。
目に見えるような冷たい空気に取り囲まれ、会話が途切れる。
この空気にとっつぁん飲まれちまったんじゃねぇか?と、ルパンは首を傾げて銭形を見る。
「なかなかうまいじゃないの。インスタントっぽいけどよ。」
「飲めるだけ有難いと思え。」
その時、微かに銭形の表情が見え、ルパンは少し目を丸くした。
「…ルパン。」
「ん?」
驚いていると銭形がルパンに声を掛ける。
だが銭形は何かを言おうとするだけで言葉は発しない。
「…いや、何でもない。」
「何さー。気になるじゃないの。」
「……。」
銭形はへらへらとわざとらしく笑うルパンを見て、重いため息をつき少し俯く。
それを見たルパンは若干首を傾げたのち、真剣な表情で銭形を呼んだ。
「とっつぁん、見ろよ。月。」
ルパンが指したのは牢屋の小さな窓から零れる光の源、月だった。
月は無垢な光をむらなく落としながら二人を見つめた。
「そうだな…それがどうした?」
ルパンは月を見つけてはしゃぐような人間では無い、と銭形は不可解に思いながら月の下でルパンの顔を見る。
「やっぱりな。」
「何?」
ルパンは銭形と目が合うと何か証拠を掴んだかのように小さく頷いた。
その反応に銭形は眉を顰める。
するとルパンは銭形を指差し、片眉を上げた。
「あんた最近寝てなかっただろ?くまっぽいのできてんぜ。」
檻を挟んで約1.5メートルの距離。暗闇ではよくわからなかったので、ルパンは敢えて銭形の顔を上げさせ、その表情を月明かりに照らした。
確認するために月明かりの下へ…。
銭形は咄嗟に浮かんだ言葉があったが、素直に吐くのもらしくなかったので、ふん、と鼻を鳴らした。
「お前が捕まれば俺も少しは休めるんだよ。」
「ありゃ、そうけ。なら今夜はゆっくり寝れんじゃねぇ?」
「かもな。」
微かな笑みを見せて銭形は自分用に注いだコーヒーを口にした。
それを見たルパンはどこか嬉しそうにがたがたと椅子に座ったまま檻に近付く。
「とっつぁん、」
「あ?」
「ん。」
「……。」
ルパンはマグカップを差し出している。
「今宵の月明かりにってな。」
「くさいこと言いやがって…。」
「生憎男には素敵なセリフは持ち合わせていなくてね。」
「ふん。」
無愛想にマグカップを差し出す。ルパンは微笑んで檻にマグカップを近付けた。
「乾杯。」
カチン、と陶器がぶつかる小さな音が牢屋に冷たさの欠ける静寂を呼んだ。
「明日から明々後日にかけてここを抜け出してやるぜ。」
「ふん、やってみろ。わしがどこまででも追いかけてやる。」
それは出口の無い迷路の再開。
行き止まりに当たってしまったのなら、また迷路を楽しむためにそこで休むのも良い。
決して偽装などされていない、真正直な行き止まりで。
-fin-
○ルパンととっつぁんのお話。
とっつぁんは自分の事はバカにされても
ルパンをバカにされたり否定されたりすると
すごく怒るような感じがします。
そんな中で捕まえたルパンなので、
少し複雑で悩んでしまっているとっつぁんが
書きたくて書いてみました(^^)
よくわからなくてすみませんっ(汗)
Thank you for reading!!
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