常日頃の思いを
いつものように明日の潜入先の下見を終えると、ルパンはアジトに戻ってきた。
次元は弾の調達、五右ェ門は修行と、三人ばらばらに行動していたため、一番初めに帰宅したのはルパンだと思われた。
「ただいまーん。」
無い返事を期待しながらルパンはリビングに入る。
今のアジトは少し狭いが食料も豊富で勝手が良く、何より人目につきにくい場所にあってなかなか良いところだった。
ただ日が当たりにくいため、不二子だけはあまりこのアジトには好んで来ることはない。
だから、ルパンもソファーに座った時、目を丸くした。
「よいこらせっ…、?」
小さなダイニングテーブルに誰かが伏して寝ている。
誰か、といっても一人の人物しか思い当たらないのだが。
ルパンはゆっくり近づいて肩を優しく叩く。
「不ー二子。」
だが不二子の返事は無く、少し寝息を大きくして顔をこちらに向けた。
「寝てんのか…?」
目を瞑ったまま、また整った呼吸を始める。
ルパンは微笑みながら隣に腰掛け、肘をついて不二子の寝顔を眺めた。
「また珍しいこともあるもんだぜ。」
開いている窓から少しずつ入る風で栗色の髪がなびいている。長いまつげはしなやかな曲線を描いて伸びていた。
相変わらずの滲み出る美貌にルパンはいつの間にか見入ってしまっていた。
「こうしてたらただのかわいこちゃんなんだけどなー…。」
まぁ、ただの素直な子じゃこんなにはまらないんだけど、と独り言をぼやいて苦笑いし、ルパンは視線を動かした。
でもなんで不二子が…。
その時、あるものが視界に入る。
「?」
ルパンは立ち上がってキッチンに歩み寄った。
数分後ガチャリ、とドアの開く音が静寂の部屋に響く。
深緑のボルサリーノを被った男がジャケットを脱いだルパンの顔を見て声を掛ける。
「おうルパン。」
「しーっ。」
するとルパンは笑って人差し指を口元に当てる。
次元は頭上に「?」を浮かばせたと同時にルパンの隣で赤いジャケットを羽織って眠っている女性に気づく。
「…何でここで不二子の奴が寝てるんだ。」
「お疲れだったんじゃなぁい?」
「ふぅん…。」
くすくすと笑いながら小声でルパンが言うと、次元も辺りを見回した。
「ん?」
そしてキッチンの奥に何やら白い皿が置かれている。それも何かを複数乗せて。
それを手に取ると、ルパンはぬふふ、と込み上げる笑いを隠さずに出した。
「あ、次元も気付いた?」
席は立たずに言うと、次元の表情からもいつの間にか笑みが零れていた。
「こいつはすげぇ。明日斬鉄剣でも降ってくんじゃねぇか?」
「はは、確かにな。」
「斬鉄剣はこの世にこの一本だけだ。」
二人して声の無い優しい笑いを共感しているといつの間にか背後に五右ェ門が立っていた。
「五右ェ門。」
「お主ら男二人して何を…。」
「しー。」
「…?」
二人に口を閉じるよう人差し指で促されると五右ェ門は少し驚く。
そして直後不二子に気付き、五右ェ門も歩みよった。
「不二子のこんな姿を見るのは久しいな。」
五右ェ門は不二子の前の椅子に座り、腕を組む。
すると次元はキッチンから置かれていた皿を持ってきて五右ェ門の前に置いた。
「不器用な頑張りを見せてくれたんだよ。」
現れたのは幾つかのクッキーとブラウニー。
「これは…。」
そのうちクッキーは少しいびつな男三人の顔を真似て作られてあった。
「慣れないことしちゃって、細い指がこんなんなってんじゃないの。最近小麦粉の量が減るの早いと思ったら。」
何処か困ったように、だが限りなく愛しそうに不二子の指を取って眉を動かすと、次元はダイニングテーブルの上に座り、帽子の下から目を細める。
「小麦粉くらいまた買ってやればいいさ。」
「不二子の気持ちには変えられん。」
「そだね。」
次元以外の二人もわかっていたように返すと、三人は不二子を見た。
「不二子さんきゅ。」
「感謝するぞ。」
「ありがとな、不二子。」
次元が栗色の髪を撫で、ルパンが不二子の頬にキスを落とすと不二子はくすぐったそうに微笑んだ。
アジトには、こんがりと焼けたクッキーの匂いと、小さな寝息だけで満たされていた。
-fin-
〇みんなに愛される不二子ちゃん*
やっぱり不二子ちゃんは愛されるキャラだ!
と思って書き上げました(笑)
2ndでは料理が苦手…なのかな?
なので今回は頑張ってもらいました♪
このあとは四人ともリビングで
寝ていたら良いな、と(^^)
Thank you for reading!!
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