感謝を込めた歌

※思った以上にル・次・五の家系に捏造が入ってしまいました。捏造が苦手な方、嫌いな方はご注意を!※








目の前は白とも黒とも言えない色に囲まれ、そこには壁も床も無い。

(なんだ…ここ…。)

ルパンは何も言わず一歩前に進み、ポケットに入れていた手を出す。

「……。」

(やけにあったけぇな…でも、これどっかで…。)

何処かで感じたことのある気持ち。
肌では感じられない思いにルパンは首を傾げる。

「…っ…。」

その時、何者かの声が聞こえる。

(聞いたことのある声だ…誰だ…?)

「…ッ…ン…。」

二度目が聞こえた。と同時にルパンの脳が痺れを訴える。
その痺れはルパンの薄い記憶を揺さぶった。

(…そうだ…この声は確か…。)

霞む目を擦り、もう一度意図的に記憶を叩き起こす。
すると、薄らと何処からか光が差した。

「…い、おいルパンっ。」

目を開けると、そこには相棒の顔。

「んぁ…次元…?」

「やっと起きやがったか。いつまで経っても朝には弱ぇな。」

ため息をつきながら次元は帽子の下からルパンを睨む。
ルパンは上半身を起こして、へらへらと笑いながらぐっと腕を天井に伸ばした。

「まぁねー。」

「起きたのか?」

するとルパンの寝ていたソファーの後ろから別の声が聞こえた。

「お、五右ェ門。おはよーさん。」

ダイニングチェアに胡坐をかいている、眠る前には修行でいなかった五右ェ門にひらひらと手を振る。
それを見ながら五右ェ門も次元のようにため息をついていた。
次元は五右ェ門に振り返り、隣りに腰掛ける。

「あぁ、こいつに効く目覚まし時計は不二子の声だけだよ。」

「起きた時に何の支障も出ないことが面妖だな。」

「全くだ。」

感心しているような、半ば呆れているような二人を見てルパンは笑う。

「ぬふふー。……。」

だが、先程の夢が少し気になり、すぐに訝しげな面立ちになる。
それに次元は気付いた。

「どうした?なんか夢でも見たか?」

声を掛けると、ルパンはゆっくり頷きながら不器用に微笑む。

「ん。なんか、母親っぽいのが出てきた。」

予想外のセリフに2人は目を見開く。

「母親…?」

「お主、母上の面立ちを覚えているのか?」

「いや全く。」

ルパンはソファーから降り、もう一度腕を上に伸ばしてダイニングチェアに座った。
そして次元が淹れたコーヒーに手を伸ばす。

「でもなんか…そういう感じだった。声とか聞いたことあるもんだったし、かわいこちゃんとは違ってた。」

目を細めながらルパンはコーヒーを啜る。
外で親子の声が聞こえ、一瞬そちらに目を向けたように見えたがすぐに逸らした。

「生きてんのか死んでんのかも知らねぇ相手だけどな。なんつーかこう、あったかいってか…うまく表現できねぇや。」

はは、と笑いながら頭をかいた。
また、外から声が聞こえた。この近くで何やら親子のイベントがあったらしいことを今思い出す。
次元は帽子を押さえて視線を下げた。

「そか…。」

ルパンはらしくない話を、と思いながらもゆっくり口を開く。

「お前らは覚えてる?親の顔。」

コーヒーカップを置くと、次元はそれを取りながら目線を上にやった。

「親なぁ…ちっとは覚えてっかな。ぼんやりだが。」

こくり、とコーヒーを飲み込む。濃いめに入れていたはずのコーヒーは色相応の味がしなかった。
次元の答えを聞き、ルパンはテーブルに肘をつく。

「そんなもんか。五右ェ門は?」

五右ェ門に指を差すと、一度何かを思ったように見えたが咄嗟に浮かんだものは言わずに口を開く。

「拙者もそういったものだ。だが親の顔はできるだけ思い出さぬようにしている。」

「そいつは何で。」

次元が五右ェ門に目を向けると、五右ェ門は少し顔を下げる。

「親を想えば、この剣は握れぬ。遅き後悔…いや、謝罪と申すか、見せる顔が…無い。」

「……。」

ルパンと次元は何も言葉が出なかったが、五右ェ門は続けた。

「故にこの世界に入ってから拙者はできるだけ思い出さぬようにしている。」

「なんか…、ごめんな。」

微かに見えた影の表情に気づき、ルパンは申し訳なさそうに頭を下げる。

「構わん。これも修行だ。」

小さく微笑みながら五右ェ門はルパンを見た。

そして次元が不思議そうにルパンの方を指差す。

「ルパンは親父さんの顔は覚えてんだろ?」

「あぁ。」

「なら何で母親は覚えてねぇんだ。」

「……。」

思い出している、というより、見えないものを必死に手探りで探しているようにルパンが眉間に皺を寄せる。
そして、重そうに唇を開けた。

「親父には怪盗になるための多様なことを聞いたから覚えてるだけさ。でも母親とは全然会わなくてね。」

微かな過去が呼び起される。
トラウマと言うほどでもなかったが、あまり他人に話したいものでもなくルパンは途中で躊躇した。
存在は確定、記憶は曖昧。そんな相手を話すことなど思ってもいなかった。

「怪盗が嫌いなのか、俺が嫌いなのか、とにかく俺と話さなかった。だから記憶も虚ろだけどよ、」

無意識に嘘をついて、少し誤魔化し、顔を上げる。

「きっと夢ん中に出てきたのは俺の理想だったのかもな。」

「……。」

あからさまに作り笑いをしている男に、二人は気の利いたセリフなど吐けるはずもなかった。

そしてまたいつもの笑顔を見せる。

「なんちて。」

「ルパン、お主…。」

聞きたくないのに確認せずにはいられない言を出そうとすると、それに気付いたのかルパンはすぐに五右ェ門の言葉をかわした。

「ま、今更だけどな。とにかく何でもいい。この世に生まれてきたおかげで俺様はこんな楽しい奴らと会えたんだからな。」

自分さえ知らぬ見えない相手がいなければここに自分はいなかった。
そう思いながらルパンは目を細める。

「記憶の中にも、この世にも、薄らとしかいない相手に感謝するよ。」

本心なのか、そうでないのか。
だが次元はいつも通りに見せた相棒に笑い返し、くくっと喉を鳴らす。

「お前はたまにゃそう素直だな。」

「普段からっしょ?」

「はっ…、普段からならこんな苦労しねぇよ。」

「まぁ、それを抜けばこやつらしくも無いであろう?」

「失敬しちゃうぜ。」

五右ェ門もそれを悟って同じように茶化す。
ルパンは普段通りけらけらと音も無く笑いながら椅子から立ち上がる。

「一回しかねぇ人生。ま、楽しみましょ?」

ベランダの前に歩み寄り、外を見ると、子供が必死に空に手を伸ばしていた。ふわふわと小さな手から離れてしまった赤い風船はゆっくりとルパンの前に現れる。

「そう思うんならもう少し無茶はよしな。」

その風船に軽く触れると、ルパンはふと笑みが零れた。
そして二人に振り向き、また別の笑顔を見せた。

「色んな景色が見える崖っぷちで踊るダンスほど最高なものはねぇさ。」

ガチャリ、と銃を構えルパンは後ろに向けて引き金を引く。
鉛弾に撃ち抜かれた風船からは赤い花びらが散り、ゆっくり地に落ちていった。

そのうちの一枚がルパンの足元に落ち、それを拾う。
柔らかなキスを落として、ルパンは花びらを気ままに現れた風に乗せた。

「さて、明日は何の音楽で踊ろうか?」

花びらは風と共に別の建物の屋上へと飛んで行った。

今宵のエンディングは、きっと一つのあたたかな歌。

己のありきたりな言葉と意味を込めた、貴女の声の子守唄。


-fin-

○少しシリアスな三人のお話。
個人的には1stイメージです*
某ではないんですが。
母の日ということで急ぎました(笑)
捏造ばっかりですみません!
でもルパンはきっと自分のことを
あんまり話したがらないと思うので
ルパンのセリフは殆ど嘘と
思って頂いた方が…。

Thank you for reading!!


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