男の作戦-キスと愛の花束-

「不ー二子ちゃんっ。」

少し肌寒い風が季節の変化を知らせながら髪を撫ぜる。
黒く短い上にワックスで固められているルパンの髪は春風に吹かれてもあまり変化を見せなかったが、少し遠くにいる不二子の栗色のロングヘアは素直に風に躍っていた。

「…?」

大きめに名を呼んだにも関わらず、不二子はこちらを見ない。
ただ黙って咲きかけた桜の木を見上げている。

ルパンはそのままゆっくり歩み寄り、不二子の隣に立った。

「不二子。」

「あ…ルパン…。どうしたの?」

やっと顔を動かした不二子だが、その瞳は少し悲しげに見えた。
涙を浮かべているわけでもないその目に、ルパンは仕方なくいつものように微笑みながら不二子を覗き込む。

「不二子ちゃんこそ。何見てたのさ?」

「何か…見てたのかしら…。自分でもわからないわ。」

「そっか…。」

誤魔化すように笑うと、それを察したルパンは何も追求せず頷いた。

そしてふと、空を仰ぐ。
無音にただ蕾を解こうとしている花々達が、遠慮がちに2人を見下ろしていた。

「あ、桜も咲き始めてんな。」

不二子も同じようにもう一度桜を見上げた。
まだ白っぽい桜はそよ風に吹かれながらゆらゆらと揺れている。

「桜ってね、散ってからあのピンク色になるんだってさ。」

「そうなの?」

ルパンが桜から目を離して言うと、不二子は感心したようにルパンを見る。

「らしいよ。種類にもよるらしいけど…。」

ポケットに手を入れて桜を見ると、不二子は両手をそっと合わせて微笑む。

「何だか素敵。偉大な芸術家と同じでこの世を去って名声が高まるなんて、すごく切なくて神秘的だわ。」

王道の桜の色と名声をかけて言うと、ルパンは小さく頷いた。

「俺様は消える前に名声が高まってるけどね♪」

「あなたは芸術家じゃないでしょ。」

「盗みは芸術なのよー。」

あのいつもの笑顔で笑いながら肩を揺らして飄々としてみせる。
そんな姿を見て不二子の表情も綻んだ。


「ルパンが有名じゃなかったら…あたし、どうしてたのかしら。」

ふと、そんな言葉が漏れる。
深い意味はなかった。ただの独り言のようなものだったが、ルパンも不二子自身も何故かそのまま流すことのできない言葉であった。

ルパンは優しく、少し悪戯に不二子の頭を撫でる。

「俺以外の色んな男からお宝を頂戴してたんじゃない?」

風に吹かれていたせいもあり、少し髪がはねていたが少してぐしで整えてやるとすぐに元に戻った。
女性の髪は命であるということが、これを見てもすぐにわかる。日々のスキンケアは並大抵のものではないのだろう。

髪を触られて些か恥ずかしいのかルパンのセリフに怒っているのか、不二子は顔を赤らめながらルパンを睨む。

「失礼しちゃう。それだけの女じゃないわよ?」

「ごめんごめん」と軽く謝るとぷいと顔を背ける。
可愛らしい行為にルパンは緩む顔を戻すことができなかった。

すると不二子は顔を背けたまま、ゆっくりと口を動かす。

「きっと…あなた以上の男なんてきっと見つけられなかったわ。」

ルパンの目が点になる。
その時、喜びよりも先に幸せがルパンの中を駈けて行ったことに本人は複雑でもどかしい感情に覆われた。

「素直に喜んでもいっかな?」

ルパンに耳元で囁かれると、不二子ははっとしてルパンを見上げる。
先程以上に紅潮している顔で。

「べ、別に盗みのことだけだからねっ?他は…っ。」

「はーいはい。」

今更な言い訳を一生懸命言っている不二子をルパンは抱きしめた。

「盗みのテクニックだけでも十分嬉しいよ。」

ありがとう、とは言わずにただ腕の力を込める。
必死に否定していた不二子もこの時は素直にルパンの腕の中に納まった。

何かもごもごと言っていたが、そよ風に攫われてルパンの耳に届くことはなかった。
その時、あ、と今日という日を思い出す。

「あ、不二子ちゃん。これ。」

一旦不二子を離して小さな箱を取り出した。
それを見ると不二子はルパンを見上げる。

「?仕事あったの?」

「違う違う。遅くなったけど、バレンタインのお返し♪」

珍しく不二子自身も今日という日を忘れていた。
それを受け取り、パカ、と箱を開けると中にはネックレスが入っていた。
金色の小さなハートのネックレスで、そのハートの淵にはラインストーンが控えめに一つ付いていた。

純粋に女性向けで可愛らしく作られているネックレスに不二子は嬉しそうだった。

「可愛い…ありがとうルパン。」

「どういたしまして。」

そのネックレスを不二子がつけている間に、あるものを見つけた。

「不二子、」

つけ終わった不二子を呼んで、すっとたった今拾ったものを差し出す。
差し出したのはまだ散っていない桜の花。
重力に耐えきれなかったのか、風に吹かれてしまったのか、その姿は作り物のように美しいままだった。

「まぁ綺麗。」

その桜を持った手で不二子の髪に触れる。
ゆっくり手を離すとルパンの手から桜は消えていた。

「うん、似合う似合う。やっぱり女の子は花が似合うや。」

桜の花は不二子の髪留めとして咲いていた。
その姿を見るとルパンは桜の木を見上げて微笑んだ。

「この桜は散る前に落ちちゃったんだから、こうやって女の子の一時の髪飾りとして生きた方が嬉しいんじゃないかってね。」

見えない命にも微かに見えたルパンの優しさに不二子は惹かれた。
だがそれを素直に認めるのは少し気にくわなかったので、心の中で違う違うと否定していた。

ルパンはその事には気付かず、そっと不二子の頬に触れる。
そしてまっすぐ不二子を見つめた。

「果てない永遠ではなく、一瞬でも輝ける時を。」

触れるだけのキスを交わすと、ニッと笑って不二子の目じりに口付けた。

「俺たちの愛は不滅だけどね♪」

「もう、ばか。」

ルパンを睨みながらも、その目は笑みを見せていた。
くすくすと笑い、ルパンに寄り添う。

「でも…その通りかもね。」

次は不二子からルパンの頬にキスを落とすと、どちらからともなくもう一度抱きしめた。


-fin-

○ホワイトデー最終章!
ル×不のほのぼのでした*
本っ当にW.D関係ない…っ!!
でもこの2人は書いていて
すごく幸せになります(*´∀`*)
でも優しいルパンが多いので
いつかちょい鬼畜なルパンも
書いてみたいn(ry←

Thank you for reading!!


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