男の作戦-二度目の告白-
昼まで降り続けていた雨が上がり、空は紅く晴れ渡り美しい夕焼けで人々の影を伸ばしていた。
コンコン
「はーい…あっ五右ェ門様!」
雨上がりの景色は美しく、何気なく葉から落ちる雨の水滴を眺めていると玄関の戸が鳴る。
駆け足で向かうと、そこには今の時代には相応せぬ服装に身を包んだ人物が立っていた。
「お久しぶりです紫殿、突然お邪魔してしまって申し訳ありません。」
「いえいえ!旦那様なのに何を仰るんですかっ。」
紫は「旦那」という言葉に力を込めながら嬉しそうに笑った。
そして玄関に上がり、五右ェ門を目で招く。
「さ、どうぞ中に…。」
すると五右ェ門は些か慌てて手を振る。
「あ、いえ、本日は些かお誘いに…。」
「お誘い?」
頭上に「?」を浮かべて首を傾げると、五右ェ門は頷いた。
「えぇ、少しで構いませんので…よろしければお出かけを致しませんか?」
少し紅潮しながら言うと、紫は一瞬言葉を無くした。
紫が何処かへ行きたいというのは過去にも何度かあったが五右ェ門から誘う事は少ないため、紫は喜んで首を縦に振る。
「…はいっ!喜んで!」
五右ェ門を玄関で待つように言うと、紫は急いで着替え、ぱたぱたと五右ェ門の元へ駆けた。
久しい2人の再開を祝してか、夕日は一層明るさを増しているように見えた。
紫は喜色満面で五右ェ門を見上げ、手を後ろで組む。
「五右ェ門様、どこに参るんですか?」
「………。」
だが五右ェ門は何も答えない。
聞こえていなかったのかと思い、紫は五右ェ門の顔を覗き込んでもう一度口を開いた。
「五右ェ…。」
その時、ふと五右ェ門が足を止める。
目の前には高い石段が2人を見下ろしていた。
「ここって…神社?」
日もだんだん落ちてきて薄暗いため石段は上まで見上げても暗くて見えないものになっていた。故に紫にとってはそこは肝試しに近い場所だった。
だが五右ェ門はそのまま石段を上り始める。
「えっ五右ェ門様、上るのっ?」
驚いて声をかけると、五右ェ門はさも当たり前のように振り向いて頷いた。
「はい、宜しければ紫殿にも同行して頂きたいのですが…。」
せっかく連れてきてもらったので断るに断れず、その上このまま1人でそこに立っておく勇気もなかったので紫は心配そうに頷く。
「は…はい…。」
たたっと五右ェ門に近づくと紫は五右ェ門の腕にしがみついた。
「五右ェ門様、絶対に離れないで下さいねっ。」
五右ェ門はくすくすと笑いながら「承知」と微笑んだ。
上がれば上がるほど暗くなってゆく。
日も殆ど落ち、微かな明かりに頼りながら2人は進んだ。
やっぱりちょっと怖い…
嫌なものを見たくないためできるだけ周りを見ないように上っていると、五右ェ門は紫を見下ろした。
「紫殿。」
「はっはい!」
驚いたという事もあり、異様に声が高くなってしまった。
それと同時に石段を上り切った。
「?どうかなされたのですか?」
てくてくと歩きながら神殿の前に立つ。
紫は誤魔化すように首をぶんぶんと横に振った。
「いえっ何でも!五右ェ門様こそどうしたの?」
「あ、はい。これを…。」
「?」
紫の前に差し出されたのは白い箱。
レースのリボンに結ばれたそれは暗い神社の中でも見えるほど輝いて見えた。
「先日頂いたクッキーのお返しです。」
「えっありがとうございます!」
喜んでその箱を受け取ると、紫はいそいそとリボンと解いた。
「わぁ…おいしそうっ。…?」
中には綺麗に焼かれたバタークッキーが並べられていた。
和食しか好まない五右ェ門がここまで作れたのはルパンのおかげであろうが、そのことは五右ェ門は敢えて言わなかった。
ここで言えば見えない相手に茶化されている感じがしたからだ。
そしてそのクッキーの隣にクマの手のひらサイズの人形が二つ置かれていた。
「くまさん…可愛いです!ありがとうございます!でも、これって…。」
よく見るとクマは二つとも服を着ている。
一つはタキシード、もう一つはベールとウェディングドレス。
クマは赤いリボンによって繋がれていた。
「さて…、」
五右ェ門は紫がクマを見たことを確認するとそのクマを取り出し、もう片方の手で紫の手を握る。
「紫殿、拙者は健やかなる時も病める時も貴女を愛し続ける事を誓います。」
暗いため、どんな顔をしていたかわからなかったが恐らく頬は赤いはず。
紫は高鳴っている鼓動もそのままに口を少し開けたまま五右ェ門を見上げる。
「紫殿も…誓って下さいますか?」
一瞬、表情が見えた。
月明かりか、はたまた別の何かかは分かり難かったが五右ェ門も紫も紅潮していることがわかった。
紫は握られている手できゅっと握り返し、五右ェ門の胸に体を近づけた。
「はい…。」
なぜ五右ェ門がわざわざここへ連れてきたのか、その理由が明らかになって紫は言葉にできない幸せを感じた。
五右ェ門はクマを持った片腕で紫を抱きしめた。
「ありがとう。」
耳元でそっと囁くと、紫は幸せそうに頷いた。
「……。」
「どうしたの?五右ェ門様。」
そのあと、五右ェ門は紫を見て何とも言えない顔で停止した。
紫が声をかけると、さきほど以上に顔を赤らめながら目を逸らす。
「いや…本来ならばここで…その…。」
その時、五右ェ門が言いたいとしていることが紫にはすぐわかった。
「あ、キスね!」
その行為の名を言うと、五右ェ門は顔から煙が出る勢いで俯く。
「い…如何にも。」
五右ェ門の必死さは伝わったが、紫はその様子が少し面白く感じ悪戯に五右ェ門を覗き込む。
「五右ェ門様結婚式の時もして下さらなかったんだもの。今はしてほしいな。」
乞うように言うと、五右ェ門は悩ましげに口をつぐむ。
「…。」
「ね、五右ェ門様。」
「………。」
観念、というと言い方が悪いが五右ェ門は困惑しながら紅潮して紫を見る。
そっと肩に触れると一吹きの風を合図に、二人の距離はなくなった。
微かな温もりが唇から離れると紫はニコニコと可愛らしい笑顔を向けた。
「ふふ…なんだか嬉しい。ありがとう五右ェ門様、大好き!」
「おっと。」
飛びつくように抱き着くと、五右ェ門は優しく紫の頭を撫でた。
「こちらこそ。いつもお待ち下さり、ありがとうございます。」
二回ほど撫でると、紫はがばっと顔を上げて五右ェ門を見上げる。
「好き?」
「え?」
「あたしのことは、ちゃんと好きですか?」
紫が笑顔を向けて言うと五右ェ門は微笑んでクマを紫の前に差し出す。
タキシードを着ているクマの鼻と紫の唇をくっつけると、目を細めて紫の頬に触れた。
「無論。拙者は紫殿を愛しています。」
神の前で誓った愛。
どうか永久になるよう祈りを捧げよ。
「夜に2人だけで挙げる神前結婚式ってなんだかロマンチスト♪ありがとうございますっ。」
「い、いえ…。(ルパンには感謝…すべきか…。)」
-fin-
○ホワイトデーです*
何だか予想外れというか…
被った感が否めないですね(;_;)
でも前は指輪だったし
まだギリギリセーフのはず…(独り言)
五右ェ門はルパンに
「2人だけの式を挙げてきな。なんなら教会とっとくけど、お前さんは神社とかの方がいいだろ?」
とかなんとか言われてたら
良いのにな、と(^^)
Thank you for reading!!
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