存在しない確かなもの

「次ー元。」

窓は全面ガラス張りで、関係者以外は覗くことさえ見過ごさないといった殺伐とした空気を放つビルの屋上に、次元はビルの淵に腰掛け片足を不安定にビルからぶら下げながら、1人紫煙を燻らせていた。すると後ろから反射的に体が反応するほど良く知っている声が聞こえ、次元はゆっくりと振り返る。
そこには、考えていた人物が微笑を浮かべながらこちらを向いて立っていた。

「ルパン、お前なんでこんなとこにいんだ。」

「さっき五右ェ門に聞いたんだよ。そしたらここにいるって聞いてさ。」

ゆっくり歩み寄り、次元の隣に腰掛ける。

「仕事の話か?」

「そうそう。あと差し入れ。」

ルパンは片手に持っていた二つの缶コーヒーのうち、一つを次元に渡した。

「さんきゅ。」

それを受け取ると、まだ少し温かい缶を持ち替え、ぷしゅ、と音を立てて開けた。
中からは安っぽいコーヒーの薫りが漂い、ゆっくりとそれを啜る。
次元がコーヒーを一口飲むと、ルパンも同じように開けて缶コーヒーを口にした。

何でもない空気が二人を包む。
その時、次元はふと真下に光る建物のイルミネーションを心無く見ながら口を開いた。

「なぁ、ルパン。」

「ん?」

「もしお前が俺と会っていなかったら、お前はどうしてた?」

唐突な質問にルパンは思わず目を丸くした。

「俺が次元と?」

一度だけ小さく頷く。
うーんと擬態語に近い声を発して、ルパンは両手を自分のサイドに付けて夜空を見上げた。

「そうさなぁ…もし会ってなかったら、」

次元は上げている片方の足に肘をついてルパンを見た。
ルパンはそれに気づくと、次元と向き合って小さく笑顔を見せた。

「俺は今頃怪盗じゃなかったかもな。」

冗談なのか、本気なのか、いつも一緒にいる相棒でさえわからない声のトーンに次元は言葉を失う。
するとそれを見てルパンはコーヒーを一旦置いて次元を指差した。

「お前は?」

興味津津、といった輝かしい瞳のように見えたが、次元にはルパンの目にどこか確認の色も見えた。
どういう返事を期待しているのか、次元は思考を止めてコーヒーを啜った。

「…さぁ。」

曖昧な返事をすると、ルパンはむっと眉間に皺を寄せる。

「あ、ずりぃ。俺はちゃんと言ったのによ。」

ふんだ、と子供のように顔を背けて拗ねたふりをするルパンをみて、次元は思わず微笑んだ。
そしてもう一度目線を落として、缶コーヒーを口に寄せる。

「もしおれとお前が会ってなかったら、俺はお前を探してたよ。」

そのままごくっと喉を動かして次元は口を離す。
ルパンは驚いたように次元を見ていたが、すぐにいつもの笑顔に戻って次元の顔を帽子の下から覗き込んだ。

「会ったことねぇのに?」

嬉しそうなルパンを鍔の下から見下ろしながら、次元は唇に弧を描かせる。

「あぁ。嬉しいか?」

次元がそう言うと、ルパンはわざと不服そうに眉を寄せる。

「んー…今みてぇに毎日口煩く色々言われんなら、微妙だな。」

「言われるだけありがたいと思え。」

「ありがちょふ。」

くくっと喉を鳴らしながら、二人は見合った。


「さぁて、明日はどうすっかねー。」

缶コーヒーを飲み終えると、ルパンは「んーっ」と背伸びをしながら立ち上がった。
ルパンが言っているのは先日話していた今回の目当ての品のことだとすぐわかり、次元は一応疑問符をつけてルパンを見上げる。

「ロンドンか?」

「イエース♪ご一緒願える?」

「……。」

次元が何も言わずに缶コーヒーを飲み干して立ち上がると、ルパンはポケットから一枚のコインが取り出した。

「じゃあこれで決めるか。」

ルパンは笑顔でそれをピンッと指で弾き、次元は缶を持っていない手でそれを受け止める。
そしてその拳を手前に引き、ルパンに目をやった。

「どっちだ。」

ルパンはポケットに手を入れて、肩を揺らす。

「ここは前向きに、表!」

理由がいまいちわからないルパンの答えを聞くと、次元はゆっくり拳を開いた。
そしてそのコインをルパンに弾き返す。

「仕方ねぇな。」

そう言うとルパンは優しく微笑み、二人は並んでビルの屋上階段へ消えていった。


黒い男の手のひらで、コインが小さく「?」を浮かべていたことを、その相棒は知るか否か。


-fin-

○リクエスト第1弾!!
亜梨須様から頂きました
「相棒らしさが感じられるル+次」です!
あんまり相棒さがない…(;-;)
最後のコインは実は裏でした。
ルパンもそれを知っていると
尚いいです(^^)
ちなみに「存在しない」っていうのは
「見えない」という意味です。
書いていてすごく楽しかったです*
亜梨須様、リクエスト
ありがとうございました!

Thank you for reading!!


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