「シールバー」
放課後、俺は一人で図書室で課題をやろうと思っていた。
しかし、ゴールドに放課後暇?と訊かれて、図書室に行くと言うとじゃあ俺も行く、という言葉が返ってきてからなぜこいつに言ってしまったんだと後悔した。
「消しゴムかーして」
「自分のがあるだろ」
「そんくらいいーだろー」
「お前のせいで俺の消しゴムが減らされるのはごめんだ」
「ちぇ、シルバーのけち野郎」
向かい合わせで課題を広げる。
集中してやっていると話掛けてきたり、周りをきょろきょろしたりと、課題をやる俺にとってかなり邪魔だな、と思った。
でも内心、二人だけで居れることが嬉しかったから何も言わなかった。
「なーあシルバー」
「何だよ」
「お前ってさあ、好きな奴いんの?」
予想外の質問に思わずどきっとする。
「…お前に言う必要があるのか?」
「ある」
「俺にはない」
「俺にはあんの!」
なんだそれは。
うるさい、と言おうとするとノートの上に置いたペンが小さな音を立てて転がり落ちた。
「なあ、」
逃げるようにしゃがみこみペンを拾うと、ゴールドがいつの間にか俺の目の前まで来て同じくしゃがみこんでいた。
「俺のこと好きか?」
誰もいない図書室。
窓際のゆれるカーテン。
静かにゴールドの声が空間に響いた。
何も言えなくなり、目を反らす。
こんな動揺みたいな態度をとってはだめだ、すぐに気付かれてしまう。
「…答えたくない、」
下を向いて、曖昧な答え方をする。
するとふいに体が包まれた感覚に陥った。
一瞬のことで状況が読めなかったが、俺はゴールドに抱きしめられてしまったらしい。
理解した途端、とんでもない状況だと気付いて押し退けようとしても、抱きしめる力が強くなるばかりだった。
「ちょっ…ゴールド…!」
「シルバー、超どきどきしてんじゃねーか」
「おま、おまえだって…、」
心臓がぎゅうう、とどんどん苦しくなる。
胸の奥が熱くなって、締め付けられるように切なく感じた。
心臓が速くて、苦しい。
ゴールドの心臓も俺と同じ速さだった。
「は、はなせ」
「嫌だ。シルバーが言うまで離さねー」
「言うって何を…」
「俺のこと好きかどうか」
「は、はあ?」
なんでそんなことを言わないといけないんだ!
確かにゴールドのことを嫌いなわけじゃない、むしろ…そういうわけだが、なぜ今この状況で言わないといけないのか。
しかしそんなことを考えている間も、そのゴールドに抱きしめられてるのには変わりなくて、逃げ場がないと気付きしょうがなく物凄く小さな声で質問に答えた。
案の定ゴールドには聞こえなかったらしく、え?と聞き返される。
顔が熱くて倒れそうだ。
「だ、だから…好きだって」
「…誰を?」
「………ご、…ゴールド…、」
精一杯な声で言うと、抱きしめられていた腕から解放されて、肩を掴まれた。
ああもうしにたい。
なんで本人に言わないといけないんだ。
というかこれ、普通に考えて告白ってやつじゃないのか?
なんでこんなことになったのか全くの不明だ。
「俺も、シルバー好きだぜ」
いつもみたいに、思い切りの笑顔で言った。
こんなの反則だ。
胸が熱くて、苦しい。
固まっていると、また腕を引き寄せて抱きしめられる。
耳元で低く、キスしていい?なんて言うもんだから、馬鹿!と言って頭を叩いた。
「ま、まだ早いだろうが」
「じゃあ明日は?」
「…調子に乗るな!」
苦しい、嬉しい、恥ずかしい
(あれ?シルバー顔赤っ!)
(黙れ!お前こそ人のこと言えないぞ!)
(お、俺は違う!)
2011.03.14