「真ちゃん真ちゃん、手ちょっとみして」
「?人の手をみてもそんなおもしろいものじゃないだろう」
「えー?そんなことないって」

まったく、とテーピングを取った左手を差し出す。なんだかんだで、真ちゃんは優しいのだ。
普段部活のとき以外はしっかりと守られてケアしているだけはある、本当にきれいだ。男の手、というのはわかるけど、へたしたらクラスの女子の手よりきれいなんじゃ?という程。いや、ちゃんとみたことないから憶測ですが。

「そういうば真ちゃん、ピアノ弾けるんだっけ」
「まあ、習っていたからな」
「だよな。うっわすげえ」

そうかあ。このきれいな指先で音楽を奏でるのを想像するだけで胸に温かい気持ちが広がる。いいなあ聴いてみたい。今度聴かせてよ、と言うとなんともいえないような表情をして、お前に聴かせる義理はない、と軽いため息を吐いた。そんな言葉に少しは傷つくものの、めげる俺ではない。

「お願いお願い!真ちゃんのピアノ、聴いてみたいんだよ」

このとーり!と必死にお願いするとはあ、とため息を吐きそのうちな、と吐き捨てた。嬉しい。真ちゃんはやっぱり優しい。へへ、サンキューと笑うとふいっと視線を反らす。触れていた手が少しだけ揺れた。シュートをうつ手、ピアノを弾く手、本を読む手。真ちゃんの大事なこのきれいな手は今は俺だけが触れている、俺だけのものな気がする。


「真ちゃんの手、ほんときれい」

そう言って、人差し指にちゅ、と軽く唇を当てる。俺より大きい肩が、びくりと跳ねるのが見えた。お、おい、という声にも反応せず、今度は中指の先を少しくわえて舐めた。やばい、いけない気持ちになってきた。真ちゃん、ごめんね。気持ち悪いのかもしれない。そう思いちらりと真ちゃんをみると、右手を口元に当てて少しだけ息を荒くしていた。顔が赤いのは夕日のせいかもしれない。でも、その表情が俺にとってはいとおしくて仕方がなかった。

「た、かお」

はあ、と息と一緒に耳に入ってきた声にはっとして唇を離す。みどりま、と呼ぶと目線をこっちに向けてくれた。ああ、やっぱり俺はお前が好きだよ。最初は、想ってるだけでよかったんだ、幸せだった。それでもやっぱり、自己中だけど、俺は真ちゃんとずっと一緒にいたい、隣を歩いていたい。わがままだけど、真ちゃんにも俺を想ってほしいって思うようになっちゃったんだ。あのね、真ちゃん、と手の甲にキスをする。

「俺のこと、好きになってほしいんだ」

ずるいな、と我ながら思う。それと同時に自らに拍手を送りたい。こんな恥ずかしいこというの、きっとこれっきりだ。夕日が沈みはじめたらしく、教室がゆっくりと暗闇に包まれていく。そんなもの、と小さく声が聞こえた。手を握ったままちらりとその顔をみると目が合った。

「当の昔になっているのだよ、バカめ」

早口に言われた言葉がうまく飲み込めず、一瞬思考が止まる。そんなものって、バカって。相変わらず冷たい話し方だけど、真ちゃんも俺が好きってことでいいのか。いいのか。悪い予想ばかりしてたわけではない。でも、本人から言われるとそれはやっぱり想像でも妄想でもなくて現実なんだ、って。そう思うと。

「うわっ、待って。すげー嬉しい。すげー嬉しい」
「・・・同じことを繰り返して言うな」
「だって、真ちゃん、そんな。おれ、めちゃくちゃうれしい」
「それ以上言うと俺が殺す」
「ひでっ」

なんだよ、今好きだっていったくせに。でもまあ照れ隠しなんてことはもちろん分かってる。空いている右手で眼鏡をあげてからちらりと俺をみてふん、と拗ねたように目をそらした。握ったままだった左手を自分の頬に当てると、さっきよりはびっくりしなかった。真ちゃんの手、熱い。

「真ちゃん、大好き」
「・・・・う、るさい」

ほとんど沈んでしまった夕日のせいであたりが暗い。ふふ、と微笑んでからもう一度その熱い左手にキスをする。真ちゃんの顔がよくみえないけど、きっとまた真っ赤になっているんだろうと思うと、また愛しさが広がった。






ゆびさきから触れる
121029


2012.11.07
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