その日の雨は冷たかった。まあ暖かい雨なんて元からないとは思うけど、たまに、ごくたまーに、あ、今日の雨は暖かいな、と思うことがある。自分でも不思議だ。前に日向に話したことがあったけど雨なんていつも冷たいだろ、と言われたから、やっぱり俺だけなんだな、と何か寂しい気持ちになった。でも日向は続けて、もし暖かい雨があったら暖めてもらいたいもんだな、と言った。その日は練習試合に負けた日だった。俺が暖めてやる、そう思ったけどその時は言えなかった。気持ちも心も沈んでいて臆病になっていたんだろうか。悔しそうに震えるあの手を肩を、強く握って、抱きしめてやればよたかった。あのときの後悔は、雨が降るたびに思い出す。


部室にいても、外の雨のすごさがよく分かった。ザー、という音が絶え間なく建物の屋根を鳴らしている。俺はこのうるさいだけのような音が嫌いじゃなかった。分からないけど、どこか心が落ち着くのだ。なんて言えば、ほんと年寄りくせえな、と言われた。

「雨ふってんなー」
「聞いてりゃそんくらい分かるわ」

当たり前のことを言ったからか、眉間にシワを寄せて言いながらロッカーを閉める。癖なのか、日向はよく眉間にシワを寄せる。呆れたような怒ったようなその顔が俺は好きだった。将来シワが増えないかが少し心配だけど。
部室の中は基本的に温度は低く、こんな雨の日は心なしか更に寒く感じる。練習ったあとだったらちょうどいいくらいなのだが。日向は俺ほど寒がりではないと思うけど、少し震えているようにみえた。あの日の背中を思い出す。後悔の念に押された、抱きしめられなかった小さな背中。握れなかった小さな手。


「日向、手貸してくんね」
「あ?返してくれんのか」
「え?ああ、そうか。どうやって返そう」

本気で考えると冗談だダァホ、と呆れたように言った。言いながら、すっと俺の左手を握った。あー、あったかい。握られた掌から温もりを感じた。やっぱり日向は暖かい。俺の中にある感情をなんだかんだといいつつ、優しく包み込んでくれるように思う。すると日向が、だあーもう!と大声を出して驚いた。あれ、俺今の口に出してないよな?そんなことを思っていると、隣で手を繋いでいた日向が正面に来てその腕を俺の背中にまわした。いきなりすぎて一瞬へ?と間抜けな声が出た。

「ひゅ、日向」
「お前は、甘えることを知らんのか。遠慮してんじゃねーよ」

そう言って背中の肉をぐりっと少し捻る。地味に痛い。でもその痛みよりも掛けられた言葉に泣きそうになった。こいつは、なんでこんなにかっこいいんだ。俺がお前にできなかったことをさらっとやってしまうなんて。ほんとうに、こいつには敵わないなと。そういえば、雨が暖かいと感じるとき、いつも日向と一緒にいた気がする。

「・・・今日の雨は暖かそうだなあ」
「ダァホ、雨は冷たいもんだろうが」

背中にまわった俺より細い腕に力が入る。日向と一緒にいるから今日の雨も暖かいよ、と言ってもきっと意味わからん、て顔をされるだけだと思うから、ああ、そうだよな、とその肩に顔を埋めた。







てのひらのぬくもり

121018


2012.10.23
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