「ねえ太陽、」


そう呼びかけた瞳は、いつもより揺れているように思えた。いつもと同じなのに、ぼくの瞳をみつめる天馬の瞳が、悲しみのようなものを訴えてるような気がしたのだ。でもこれは、ぼくのただの勘違い。最近こういうことがよくある。思いこみだとわかっていても、ぼくの心は不安でいっぱいになってしまう。

「天馬、消えちゃったりしないよね?」

そういうのが精一杯だった。だって、悲しい目をした天馬が今目の前で消えてしまうような気がしたから。これも勘違い。
すると天馬はどうして?と首をかしげた。なんで消えないよ、っていってくれないの?

「いやだよ天馬、天馬がいなくなったら、ぼくはどうすればいいの?」
「太陽、おちついて。おれの手を握って」

天馬の手を両手で握る。同じように、天馬もふるえるぼくの手を握った。


「おれはずっと、太陽の側にいるよ。太陽をひとりになんて絶対にしない」


ほんとうに?そういうとほうとうだよ、とやさしい声でうなずく。

「太陽がもし消えちゃうときがきたら、そのときはおれが一緒にいるからね」
「ほんとう?ずっと手、握っててくれる?」
「ああ。だからこわくないだろ?おれたちは、ずっと一緒だよ」
「うん、天馬。ぼくたち、ずっと一緒だよ」




そんなことが不可能なこと、それくらいわかっている。ぼくの命はそう長くはもたないだろうということ。天馬もおそらくわかっている。ぼくのからだの具合をみていれば、いやでも理解してしまうだろう。
それでも、こうして手を握ってくれているだけでも充分だ。
ぼくの命がおわるとき、となりにいてくれるのなら、それ以上のことは求めてはいけない。贅沢すぎる。
だからせめてそれまでは。






幕が降りるその時まで


2012.05.14
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