松→半










(あと、もう少し)








「マックス?」


名前を呼ばれて、ふと我に返る。隣に座っている半田に手を伸ばしていて、はっとした。僕としたことが、どうやら無意識だったようだ。

「あ、いや、何でもない」
「何だよ気持ちわるいな」

危ない危ないもう少しで触れてしまうところだった、と急いで手をひっこめる。あの体に触れてはいけない。だって一度でも触れてしまったら、もう戻れなくなると思うからだ。僕と半田は部活も同じクラスメイト。良き友達。この一線を越えてはいけない。越えたあとは、後悔するに決まっているのだから。そんなこともちろん分かっている。しかしここ最近、その一線を越えてしまいそうになるときが以前より増えてきている、ような気がする。前まではこんなことそうそうなかったんだけど、どうも耐えることが困難になってきたらしい。これはいけない。気持ちをしっかり持たなければ、無意識に手が出そうだった。


「マックス」
「え、な、何?」
「最近、なんか変だぞ」

いつも鈍感な半田真一くんだが、こんなときに限って変に鋭い。そ、そう?ととぼけても、なんかあったのかよ、とどきりとするようなことを言う。

「い、いや…なんと言いますか、これは僕の気持ちの問題であって」
「は?どういうことだよ」
「いいからいいから!」
「なんだよ…。まあ、俺に話せることだったら聞くからな」

俺でも相談くらいのれるし、と少し顔を赤らめて横を向いた。何顔赤くしてんのこの子?照れてんの?ああもうほんとにやめてくれ。僕は健全な中学生なのだ。その横顔が愛しく思えて仕方がなかった。その頬に触れたい、その髪に触れたい、その手に触れたい。


(だめだ、触れてしまっては)


「はんだ、」


そんな言葉は、とうとう一瞬にして欲求に塗り潰されてしまった。




「半田、あのね、」




伸びた僕の腕は、しっかりとその手を掴んでいた。










ボーダーライン
(その一線を越えたら、後戻りはできない)


2012.05.14
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