なりゆきで、霧野先輩の家に行くことになった。練習が終わり着替えていると前触れもなく、前に貸すって言った漫画が友人から返ってきたから読んで行くか、と言われた。そういえばそんなこと言ったかもしれない。でもあのときはその場のノリで、漫画貸してくださいなんて言っておけばいつか先輩の家に行けるかな、なんて下心ありありな考えで言ったんだけど。
付き合ってる人の家に行く=そういうこと、をすると勝手に解釈しているのだけど、これは俺が子供だからなんだろうか。霧野先輩はなんだかいつも余裕そうでムカつく。家に向かう間、先輩はいつも通りで、なんとなく考えすぎている自分が恥ずかしくなった。


先輩の家は、見た目も中もすごくすっきりとした雰囲気だった。先輩の部屋は二階の一番奥の部屋で、ドアを開けるとごく普通の空間。こういうときに恒例のアルバム観賞をしようとうずうずしながら部屋を散策する。あんまり漁るなよ、と言われたとたんにアルバムを発見した俺はにやりと笑うと、霧野先輩ははあ、とため息をついた。




「狩屋、時間大丈夫か?」


言われてふと時計を見ると、もうすぐ6時になる時刻。そろそろ帰らないとヒロトさんから帰ってこいコールが来そうだ。
結局目的だった漫画は読まず、ずっとアルバムやら何やらをみてだべっていた。俺が思っていたようなことはもちろん触れ合うこともなかったが、楽しかったし、充実して過ごせた。と思う。でもやっぱり、少しだけ物足りないという気持ちもある。この人はそんなこと、ぜんぜん思ってないんだろうなあ。クソ。


「…帰りたくねえなあ」


そうだ、今日泊めてくださいよ。そう、軽い気持ちで言ったつもりだった。いつもの冗談のつもりで言ったのにもかかわらず、心臓がどくどくと波打っている。先輩は一瞬だけ目を見開いて、本気か、とだけ言った。真剣な顔にどきっとして、はっとする。

「…じょ、冗談ですよ!何本気にしてんすかー。第一俺の家、無断外泊とかだめですし」
「あ、だ、だよなー!そりゃあそうだ…」
「…え〜っと、漫画はまた次お願いしますね」
「ああ、」

柄にもなく、お互いはははと棒読みな笑い声が出る。すごく微妙な空気になってしまった。じゃ、じゃあそろそろ失礼しますね、と鞄に手を伸ばすとその腕をふいに掴まれて、でも家に連絡したら無断外泊じゃないよな、なんてことを言われた。え、と声が出る前にその腕を引かれ、すっぽりと先輩の腕の中におさまってしまった。いきなりのことで頭がついていかない。

「…あ、の…せ、センパイ」
「わ、悪い。抑えられなかった」
「お、おさえられなかったって…」

だって狩屋がかわいくて今日ずっと抱きつきそうになった、とか、二人きりになったらなんかもう、理性が…、なんてぼそぼそと言うものだから、かーっと熱が上がる。じゃあ先輩も、少しはそういうことを考えていたのだろうか。

「……センパイ、は、おれとそういうことしたかった、ですか」
「う…お、お前。よくそんなこと言えるな」
「だ、だって!おれ、霧野センパイとそういうことになってもいいと思ったから、家に来たんです、よ……」

かなりハッキリ言った。なんかこれだといかにもそうなりたかったみたいな感じになってないか。すると霧野先輩はお前…と言って頭をずしっと俺の肩に預けた。耳のすぐそばで、まじかよ〜〜〜と気の抜けた声が聞こえる。どうやら先輩は、俺が嫌がると思って手を出さなかったらしい。この人は、俺が抵抗するとでも思ったんだろうか。先輩になら何をされてもいいと思うほど、こんなに落ちているというのに。先輩はため息をついたあと、これの続きはまた次な、と言って額にキスをした。





「お、お邪魔しました」


なんだかんだですっかり時間が経ってしまい、途中までヒロトさんが迎えに来てくれるらしい。週末泊まりに来いよ、と言った先輩はまだ顔はほんのり赤いもののすごくかっこよくて、首を縦に振ることしかできない。早く週末ならないかな、とどこか弾んでいる心をなんとか落ち着かせる俺はかなりおちてるな、と鼻で笑った。








楽しみは焦らした方がより楽しめるね?


2012.02.23
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