「霧野せんぱぁい」



ふと、不機嫌そうな後輩の声が聞こえた。狩屋は制服に着替えてすっかりむすっとしてしまっている顔をマフラーに埋めていた。どうやら練習が終わって着替えをしつつ神童と話をしていたのが、つい話に夢中になって狩屋を待たせてしまっていたらしい。

「早く帰りましょうよ。今日は一緒に帰るっていったじゃないですか」
「すまんすまん。すっかり話し込んでた」

俺外で待ってますから、と吐き捨てるようにぼそっと呟くと、勢いよくドアを閉めた。ありゃ機嫌をそこねてしまったか。どうやら狩屋は待たされるのが嫌いらしい。というか、せっかちなのかもしれない。それに増して、神童と話していたことも気にさわったんだろう。狩屋マサキはせっかち、そして嫉妬深いということが最近やっとわかった。手のかかる奴ほどかわいいってのはこのことだと思う。




「明日は休みだしどっかいくか?」


隣を歩く狩屋にいかにもなご機嫌とりの言葉をかけると、キャプテンとでも行けばいいじゃないですか、と刺々しく言葉を吐く。分かりやすい拗ね方をするなあと思った。

「かーりや」

名前を呼んでも不機嫌そうな横顔は変わらない。寒さで赤く染まったほっぺたを引っ張ってみると、足を止めて睨み付けてきた。

「なにふるんでふか」
「やっとこっち向いた」
「やめてください」
「狩屋、怒ってるのか?」
「別に怒ってません」

怒ってるじゃないか。というより、拗ねてるのか。


「神童に妬いたのか?」
「ち、ちがいます」

一瞬目を見開いたのを見て確信した。違わないだろ、というと、また歩き出してしまった。後を追って隣に並ぶ。さっきより鼻の先が赤くなっている気がした。
ごめんって、と何度も言っても機嫌が直りそうにない。少しずるいと思いつつ、狩屋、好きだよ、と改めて言う。こいつはこういうことに結構弱くて、最終的に許してしまうことが多い。少しどもってう、うるさい、と白い息を吐く。

「狩屋かわいい」
「…うるさい」

続けて、あいして、まで言ったところでなんて言おうとしたか悟ったのか、わああっと手をぶんぶんと振る。リアクションがいちいちかわいらしい。そこでどうやら堪忍したようで、はあ、とため息をついた。もう一度謝ると、もういいですよ、と言って、少し間を空けてから霧野先輩、と小さく名前を呼ばれる。

「手、寒いんですけど」

マフラーに覆われてくぐもった声だったが、たしかにそう言ったようだった。そう言って手を少し差し出してくる。つくづく本当に素直じゃないなあと思う。
お望み通りそっと手を握ってやったらさっきより顔を真っ赤にして、その顔をまたマフラーに埋める姿をいとおしく思った。

2012.02.03
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -