その日、私はとても疲れていたのだと思う。というか週末だということもあり、実際に疲れていたんだろう。部屋に帰宅するなり、すぐに自分のベッドに倒れこんだ。普段の私では考えられない行動をしたと思う。しかし、そんなことを考えている余裕さえなかった。それ程疲れていたのだ。
もちろん部屋にはすでに音也がいて、そんな私をみて驚かないはずがない。


「トキヤ!どうしたの!?」

なんて声を荒げながら駆け寄ってくる。
どうしたのじゃありませんよ、今日は色々なことがありすぎて、それに加えて頭を使いすぎました。もう休むので、静かにしていただけますか。なんてことを言おうとして口を開いても、言葉を吐き出す気も起きなかった。しかしそんな態度をしたままだと、この男がさらにうるさくなることは予想できる。


「疲れたの?大丈夫?」

気に掛けていただけるのはありがたいことだが、今の私にとっては全てが睡眠を邪魔するものにしか思えなかった。そこまで考えてから、もう少し冷静になりなさい、と自分に喝を入れる。何も悪くない他人に当たるなど、人として常識がなっていない。そう思い、半ば強引に体を起こした。

「トキヤ!大丈夫?だるい?水持ってこようか?シャワー浴びる?」
「……では、水を、頂けますか」

かすれた声で言うと、ばっと立ち上がって流し台へ掛ける。まったく犬ですか貴方は。



「ほら、水持ってきたよ」

そう言って片手で私の肩を抱いて、水を飲ませようとする。水くらい自分で飲めます、と手を払い除けようとも思ったが、力が入らない。今日くらいはこのお節介な男に頼るのも悪くないだろう。そう思い、体を預ける。どう、おいしい?なんて訊かれてただの水なのにと思いつつも、はい、冷たいです、なんて面白味のない返事をした。そんな返事にもよかった、と顔を緩ませる。相変わらずアホっぽい顔ですね。


「あと何かある?もう寝る?」
「いえ、すみませんが、ねますね」

呂律がまわりなくなりそうに一言だけ言って、音也の肩に頭を乗せた。ああ、この体制とても楽です。でもよく考えると、このまま私が寝てしまったら音也が困るのでは。そこまで考えてから、まあ大丈夫でしょう、と無責任なことを思った。
するとふいに耳元でトキヤ、と名前を呼ばれて、少しくすぐったかった。

「がんばりすぎちゃダメだよ。俺はトキヤが大好きだから、辛そうだと俺も辛いよ」

意識が遠退いていく中で、そんなことを言われたような気がする。嬉しくて何か返事をしようと口を開いても声を出せない。しかも頭をゆっくりと撫でる手が気持ちよくて、その腕の中で眠りについた。


2012.01.29
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