「どうだった?」
先生からもらった紙切れを片手に、分かってる返事を聞くために問い掛けた。
机に突っ伏したまま、くぐもった声が聞こえる。
「しんだ」
「だろうね」
その席を通り越して、後ろの席に再び腰掛ける。
みせて、と言うとだらんとした腕をこっちに向けて、その手には僕とはまったく違う数字の書いた紙切れが託されていた。
それと交換に、僕の紙切れをそいつの目の前に差し出してやる。
視界いっぱいに僕の答案用紙を眺めると、一瞬だけ目を見開いて、またすぐに眠そうな瞳に戻った。
「なんでこんな点数とれんの?」
横目で睨むように、いや、羨ましがるようにこっちに視線を向ける。
「逆に、なんでそんな点数とれちゃうの?」
「嫌味かよ…」
「うん」
すんなりと返す返事に、小さく舌打ちをした。
だって多分、そんな点数とったことないと思うし。
なんて言ったら、また睨まれそうだったからやめておいた。
「勉強教えてあげよっか」
僕頭いいから教え方うまいよ、と言って得意気に笑ってみせる。
まあ返ってくる返事はわかってるけど。
「むかつくからいい」
「ひどっ」
「ひどくない」
「でもさー、高校とかどーすんの?」
「…まだ、決めてない」
「そっかー」
そういう僕も、まだ決めてないんだけど。
でも僕たちはまだ二年生だし、もう少ししてから考えるのも遅くはないと思う。
今の僕の頭だったら、大抵のところにはいけると思うけど。
でも別に行きたいところもないし、今はまだ考えたくないというのが本音だった。
「一緒がいいよなー」
「…うん」
何げにぽろりと出てしまった本音にちょっと焦ったけど、同意してくれたのが嬉しかった。
そっか、一応考えてはくれてるんだなあ。
「なあ、」
一人しんみりしていると、今度は呼ばれたのでびっくりした。
「ん?」
「勉強、やっぱり教えて」
「あれ、なんで急に」
「一緒のとこ行きたいじゃん」
案外あっさり言われたので、だよねえ、とつぶやいた。
まあ半田のこのテストの点数からして、たしかにこのまま三年生になったら僕との差は広がりそうだ。
「考えとくよ」
「なんだそりゃ」
そんなとこを思いながらも、曖昧な答えをだしておいた。
自分から言ったんじゃん、と半田はぶつぶつ文句をいっていたけど、聞いてないふりをする。
先生の号令、の言葉と同時にチャイムが流れて、その号令が終わる前にみんな席から立ち上がる。
これはどうやら四時間目だったらしく、弁当を片手に持った円堂たちが掛けてきていた。
そーいや、円堂も点数悪そうだなあ、と勝手に妄想をして苦笑いをした。
xの方程式
(教えてあげるとしたら、僕のレベルに追いついてね)
(いや、それは無理だけど)
2011.03.14