風呂上がりに肌が赤くなるのは、仕方のない現象だと思う。
だがしかし、それがなんともエロく感じてしまうのは、俺が馬鹿だからなのだろうか。
いや、俺は普段美しい自分のことをこんな風に言ったりしないが、つい思ってしまうほど、近頃の悩みはこればかりだった。


聖川は白い。
同じクラスのイッチーも普段から肌に気を使っていて、日焼け止めなんかはいつも持ち歩いている。
そのおかげで俺や他の奴に比べると、男にしてはかなり色白である。
聖川も肌に気を使ったりしているのかは定かではないが、こいつもかなりの色白だ。
ピアノを奏でる白く細い指を見ると、つい目が離せなくなってしまう。
後ろ姿を横目で見ると、首筋につい目が行った。


うーーん。
触りたい。



「聖川〜」

すぐ後ろに近づいて声を掛けると、鬱陶しそうに振り向いた。
かと思うと、またすぐに前に向き直ってしまった。
つれない奴だねえ。
俺の心の声が聞こえたのか、はあ、とため息をついて湯飲みを口に近づけながらまた振り向く。

「…なんだ神宮寺、そんななよなよした声を出して」
「聖川に触りたい」
「ブッ」

素直に言うと、口に運んでいた湯呑みから飲んでいたお茶を吹き出した。
漫画みたいまでとはいかないが、少なくとも聖川の周辺にタオルを敷かないといけない程には濡らしていた。

「おいおい汚いな。らしくないんじゃない」
「な、そ、そそ、それはこっちの台詞だ!!」
「拭いてやろうか?」
「は、ふざけるな、」

バッと振り返ったと同時に、唇をぺろりと舐める。

「!!やめろ破廉恥な奴め!」
「破廉恥って…。お前だって何回もしてきたじゃないか」
「あ、あれは…、……」


そこまで言って黙り込んだ。
そこで黙るのはずるいんじゃないのか。
すると、あれはつい、だ、と言った。
そんな見え見えの嘘をよく言うもんだな、と思った。


「…そもそも、俺たちはそういう関係なのか?そうだとしても………、順番が間違っている」

続けて、下を見ながら呟くように言った。
…なんだよ、今更。


俺たちは、お互い好きだと口に出したことはない。
でも、今まで何度か唇を重ねて来た。
その大体は聖川から誘って来ていたくせに、自分だって何も俺に伝えてないくせに。



「…じゃ、順序を踏めばもっと触れていいってことか?」
「は?」

何を言っている、と言わんばかりの顔をする聖川を無視して、その前に跪く。
空いている聖川の左手を取ると、手の甲に軽くキスをした。

「聖川、ずっと好きだった」

上目遣いでそいつを見上げると、言葉にならないのか、わなわなと顔を赤く染め始めていた。

「聖川、キスしたい」

立ち上がって言うと何か言いたげな表情をしていたが、俺は構わず聖川の腕を押さえ付けて唇を重ねた。
今までのキスは俺が聖川のに合わせていたから、ただ触れるだけのキスだった。
でも今は、俺が自ら触れたくてしている。
だから、俺がしたいようにキスをする。


「ふ、…んん…」

少し唇を離すと荒い吐息が漏れた。
顔もさっきより赤色が広がっていてつい眺めていたくなる。
ああ。

「かわいいな…」
「やっ…やめ…!」
「やめない」

やめろなんて言いつつ、気持ちがいいなんてことは明らかだ。
首筋に舌を滑らせると、ひ、と肩が跳ねた。
これくらいでこんなになるなんて、やっぱりまだまだお子様だな。
じゃあ、これ以上触れたらどうなる?どんな声を上げる?
もっと聖川の声が聞きたい。
もっといろんなところを触りたい。
少し触れただけでこんなにも敏感に反応する聖川が愛しい。
頭の中はそればかりで、思考が止まるくらい熱かった。
好きだ。



「お前にもっと……触れたい…」
「神宮寺っ…」

耳元で囁いてから目を見ると、顔は真っ赤にしていてその瞳は俺を見ていた。


ベッドへ誘導するように腕を引くと、顔を赤らめたままだったが否定はしなかった。
そのまま倒れ込みもう一度顔を見ると、早く、と急かすように俺の瞳を除き見ていた。
もう止められる気がしない、と乱暴に唇を押し付けた。







「この大馬鹿者!!」



夢から目覚めさせたのは爽やかな朝の光でもなく耳に残る携帯のアラームでもなく自然にでもなく、聖川の力強いみぞおちへのキックだった。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、落ち着いて昨日の出来事を思い出す。
ひ、聖川…あの…、と俺にしては珍しく機嫌を伺うように顔を覗くと、思い出したようだな、と何処から持ち出したのか刀を右手にしていた。
あれ?俺斬られちゃう?


「貴様、腹を切る覚悟はできてるんであろうな」
「調子に乗ってすみませんでした」

自分の命の危険を感じて、反射的にベッドの上で土下座をした。
すると頭上からため息が漏れる。

「…もういい。顔を上げろ……俺が抵抗しなかったのも事実だ、」

そう言ってふいっと向こうを向いたときにほんのり赤くなっていた。

「…気持ちよかった?」
「…うるさい」

恥ずかしいのか怒る気力もないのか、そっけなく返事をしたのでふっと笑ってしまった。
しかし俺は、これからもこいつから好きでいてもらえるのだろうか。
俺は他人が思うより臆病だ。
こんな俺の隣に居てくれるのだろうか。



「馬鹿者。俺はお前の隣にずっと居る」


俺に背を向けたまま、凜とした声で言った。
…情けないね、全く。
言葉だけで、こんなに胸が締め付けられるほど愛しいと思うなんて。

「聖川、愛してる」

後ろから強く抱き締め、その肩に顔を埋めた。
もう離れたくない、離したくないと、欲が溢れ出るのを感じた。









触れたがるこの手は?
(求めていたのは俺の方だったなんて!)




2011.10.31
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -